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認知症かな? と思ったら。脳トレやサプリより、まずは脳の血管を調べよう。

のぞみメモリークリニック院長で医師の木之下 徹さんに聞きました。

撮影・水野昭子 文・佐野由佳 イラストレーション・山下カヨコ

認知症の診察室から

Aさん 68歳 自営業 高血圧も気になっている。家族に内緒で来院。

Aさん
68歳 自営業
高血圧も気になっている。家族に内緒で来院。

木之下先生 のぞみメモリークリニック院長 同じく高血圧。三度の食事は少ないのに、体重は100kg超え…

木之下先生
のぞみメモリークリニック院長
同じく高血圧。三度の食事は少ないのに、体重は100kg超えに。

[勇気を出して検査。編]

A 最近、物忘れがひどくて。いや、歳相応かと思ってたんだけど、それとはちょっと違うかなって。今日も、自分でしまったはずの保険証が見つけられなくて。一度、検査しないとまずいかなと。

木之下 エライ、なかなか自分から来ないよ。よくひとりで来たね。

A 家族には内緒。こわいもん。予防しようと思って、こっそり脳トレやったり、なんとかいう油飲んだりしたけど。

木之下 脳トレ、好きなの?

A 好きじゃないよー。でもさ、検査して認知症ってわかったからって、どうにもなんないんでしょ? 

木之下 ちゃんとMRIも撮って脳の検査をすると、いまの脳の血管の状態がわかります。出血はないか、脳梗塞が起こる兆候はないか。認知症であろうとなかろうと、そこに対してきちんと対処しておくことは、認知機能が低下するリスクをぐんと減らしてくれます。

A そうなの? 

木之下 なんとかいう油飲むより、確実。

A へえ。そういうめんどうもみてくれるの?

木之下 オレ、医者だからね。ちょっとでも脳梗塞の兆候があったら、薬出しますよ。血液サラサラにするね。でもそうすると今度は、出血がこわいでしょ? ちゃんとその後も検査して、出血がないかとか、新たな脳梗塞はないか、いまの薬の分量でいいかとか、こまめにチェックするよ。その塩梅は任せて。

脳の血管が詰まると認知症になることも。 MRI検査をして血管コントロールを。

認知症は治療も予防もできない。でもそんな本当のことは誰も認めたくないから、巷には認知症予防情報が飛び交う。脳トレ、体操、サプリ……。効果あるのかなあ? と思いつつも翻弄(ほんろう)されている。

東京・三鷹にある認知症外来「のぞみメモリークリニック」の院長、木之下徹さんは「苦手な脳トレを必死でやるよりも、もっと確実に、誰もがやってよかったと実感できることがあります」という。

それはMRI検査をして、自分の脳の血管を調べることだ。

「MRI検査は、いま脳梗塞や脳出血がないか、過去に起こった痕跡はないか、今後に起こる可能性があるのか、など様々なことがわかります(下図)。こうした脳の病気が、認知症の原因にもなるんです」

【脳梗塞】白くなっている部分が、血の流れが滞っているところ。脳の働きが集中する場所も含めて、広範囲に広がっていることがわかる。
【脳梗塞】白くなっている部分が、血の流れが滞っているところ。脳の働きが集中する場所も含めて、広範囲に広がっていることがわかる。
【脳出血】多数の黒い斑点が、出血しているところ。血管も黒く映るので、出血の場所や出方を見極めて、出血の原因を判断していく。
【脳出血】多数の黒い斑点が、出血しているところ。血管も黒く映るので、出血の場所や出方を見極めて、出血の原因を判断していく。
【脳変性】記憶の玄関口といわれる海馬とその周辺がやせている。変性の状態によって症状の原因を特定。この画像は、アルツハイマー型認知症。
【脳変性】記憶の玄関口といわれる海馬とその周辺がやせている。変性の状態によって症状の原因を特定。この画像は、アルツハイマー型認知症。
【脳梗塞】白くなっている部分が、血の流れが滞っているところ。脳の働きが集中する場所も含めて、広範囲に広がっていることがわかる。
【脳出血】多数の黒い斑点が、出血しているところ。血管も黒く映るので、出血の場所や出方を見極めて、出血の原因を判断していく。
【脳変性】記憶の玄関口といわれる海馬とその周辺がやせている。変性の状態によって症状の原因を特定。この画像は、アルツハイマー型認知症。

中高年にはなじみ深い、脳梗塞や脳出血(ふたつの総称が脳卒中)のほか、脳腫瘍、脳変性、脳炎といった脳の病気が原因で起こる認知症を、血管性認知症という。

「血管性認知症は、MRI検査をしないと見つけられません」

逆にいえばMRI検査をすることで、いま症状はなくても、これから認知機能を低下させる要因を正確に把握できるため、対策が立てられる。ある意味、予防ができる。

「脳梗塞なら、血液をサラサラさせる抗血小板薬を処方。逆に抗血小板薬によって出血の恐れが高まるのであれば、薬の量を調整します。梗塞、出血両方のリスクを総合的に判断しつつ、血管の状態をよい方向にコントロールする。その判断力と調整のさじ加減こそ、医師の腕」と、木之下さん。

ほかにも、正常圧水頭症(せいじょうあつすいとうしょう)なども、MRI検査だからこそ発見できる。

正常圧水頭症は、症状が認知症とよく似ているのでまぎらわしいが、タイプの違う病気なので、手術で治すことができる。

「いま認知症であろうとなかろうと、定期的にMRI検査を受けて自分の脳を知っておくと、未然に防げること、改善できることがたくさんあります」

プレタール、バイアスピリン、プラビックスなどの抗血小板薬は、脳の血管の目詰まりを防ぎ、梗塞に対処する。血液をサラサラにするので、これらの薬を飲んでいる間に、逆に脳の出血が起きていないかもMRIで細かく確認する。
プレタール、バイアスピリン、プラビックスなどの抗血小板薬は、脳の血管の目詰まりを防ぎ、梗塞に対処する。血液をサラサラにするので、これらの薬を飲んでいる間に、逆に脳の出血が起きていないかもMRIで細かく確認する。

あなたは大丈夫? こんな人は、MRI検査を受けてみて!

・血圧が高い。
・明らかに太っている。
・酒飲みである。
・甘いもの、塩辛いものが大好き。
・急激に物忘れが進んだ気がする。

上記にあてはまらなくても、ある程度の年齢になったら、MRI検査をしておくと安心。気になる症状がなければ、1年に1回が目安。

認知症が不安で病院にかかったけれど、そこでの診療にいまひとつ不安があるーー。そんな思いをした人は少なくないだろう。それはその医者自身の、認知症に対する姿勢が見えてこないからではないだろうか。東京・三鷹の「のぞみメモリークリニック」院長木之下徹さんは、白衣は着ないこの出で立ちにこそ「認知症は病気ではない」という強いメッセージが隠れている。認知症医療の最前線で、ひとりひとりの人生に向き合っている。
認知症が不安で病院にかかったけれど、そこでの診療にいまひとつ不安があるーー。そんな思いをした人は少なくないだろう。それはその医者自身の、認知症に対する姿勢が見えてこないからではないだろうか。東京・三鷹の「のぞみメモリークリニック」院長木之下徹さんは、白衣は着ないこの出で立ちにこそ「認知症は病気ではない」という強いメッセージが隠れている。認知症医療の最前線で、ひとりひとりの人生に向き合っている。
  • 木之下 徹

    お話を伺ったのは

    木之下 徹 さん

    のぞみメモリークリニック院長

    1962年生まれ。東京大学医学部保健学科卒業。山梨医科大学卒業。2014年に「のぞみメモリークリニック」開業。地域認知症サポートブリッジ代表。

Dr.クロワッサン「逆引き病気辞典」(2019年10月10日発行)より

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