成功は少なくとも不成功と同じぐらい不安をもたらすもの――ジャンヌ・モロー(女優)
文・澁川祐子
成功は少なくとも不成功と同じぐらい不安をもたらすもの――ジャンヌ・モロー(女優)
ルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』やフランソワ・トリュフォー監督の『突然炎のごとく』で名を馳せ、ヌーヴェルバーグのミューズとなったジャンヌ・モロー(1928-2017)。その大女優のインタビューを見開きにぎゅっと収めた誌面に、女性誌全盛時代の贅沢さを感じます。
インタビューを受けたときのジャンヌ・モローは50歳。名言は、酸いも甘いも噛み分けた彼女が「成功はあなたを変えましたか」という質問に答えるなかで出てきたワンフレーズです。
質問に対して、まず彼女は〈ええ、成功、失敗、あらゆるものが私を変えます〉と返し、次のように続けます。
〈成功は、私の人生を容易にすると同時に、困難にしました。成功は少なくとも不成功と同じぐらい不安をもたらすものだということを忘れてはならないでしょう〉
その前段で、彼女は次のようにも語っています。
〈女優になったときぜひとも多くの人に知られたい、認められたいと思っていました。でも、すぐに私は、その無意味さに気づきました。つまり、現在はすぐ過去になっていくものだと。これを気づかせてくれたのが映画だったのです〉
映画はひとたび公開されると、彼女の手を離れて消費され、過去のものとなっていく。そしてそれが成功しても失敗しても、常に不安からは逃れられないーー。とてつもない名声を手にしながらも、我を見失うことのなかった大女優の冷静な姿が、その言葉に滲み出ていました。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
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