聴く楽しみが広がる音声配信の魅力。│ しまおまほ「マイリトルラジオ」
子どもが気持ち良さそうに歌っている時、オモチャで一人芝居を始めた時。iPhoneのボイスメモで録音するようにしている。わたしが子どもの頃、父方の祖父がわたしの声をカセットテープに録音し、それを持ち歩き旅行先で聴く、ということをよくしていた。まだ家庭用ビデオカメラも普及していない時代だったから、当時はカセットテープの新しい楽しみ方だったのだろう。両親もよく日常の音を録って、後から聴いて楽しんだりしていたから、家には沢山のカセットテープがあった。
聴きかえすとわたしを喋らせようとする祖父母、両親の若い声が一生懸命質問を投げかけたり、わたしが言ったことに笑ったり。声の向こうにテレビやラジオ、外の竿竹屋や廃品回収業者のアナウンスなどが入っていて時代の空気が一気に蘇る。動画と違って緊張感もない。録音しているのを忘れて長い時間、何気ない会話が録られてしまうこともある。まるであの頃の日常そのままが戻ってきたような不思議な感覚だ。
つい先日、あるラジオ番組でジングル(番組の節目に流れる短い音楽)を子どもに歌わせたリスナーの音声投稿が採用されていた。音質が良いわけでも、歌詞が正しいわけでもなかったけれど、楽しさとその家の空気がそのまま伝わった。
動画配信がもてはやされている昨今だけれど、音声配信ももっとメジャーにならないものかな。
聴く楽しみを知れば、ラジオの流行にも繋がるような気がするのだけれど。
しまお・まほ●エッセイスト、漫画家。1997年『女子高生ゴリコ』でデビュー。著書に『マイ・リトル・世田谷』。
『クロワッサン』1019号より
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