角野栄子さんに聞きました。素敵な大人のマナーって?
けれど、年を重ねるほどに身に染みるのは、教科書どおりのマナーやマニュアルだけでは人間関係はうまくまわっていかないということ。
たぶん、大事なのは思いやりの心と柔軟な精神。
自分も相手も、ともに機嫌よく過ごしたいなら、これまでの決まりごとにとらわれず、マナーや常識もバージョンアップさせていこう。
無用な軋轢のない、快適な関係を築くための、新しい考え方のヒントを集めました。
撮影・馬場わかな スタイリング・くぼしまりお 文・三浦天紗子
「お互いが機嫌よく過ごす上で、大切なのは想像力を持つこと」
世代も国境も超え、多くの人から愛されてきた『魔女の宅急便』シリーズや、今年40周年を迎える『小さなおばけ』シリーズの作者として知られる、角野栄子さん。
インタビュー中も言葉の端々から、『魔女の宅急便』の主人公キキのように朗らかで自由な心を持った人柄が伝わってくる。そんな角野さんは、人間関係で悩んだことがあるのだろうか。
「物言えば唇寒しと言うでしょ。やっぱり、『こんなこと言っちゃった、言い過ぎちゃった』と後悔することはしばしばです。若いころはすぐに謝ったの。でも、実は相手がそう感じていないときも『ごめんね』と言ってしまって、かえって気まずくなったり……。だから歳を重ねるにつれ、単純に謝るのではなくて、違うことで埋め合わせをしようと考えるようになりました。『きょう、こんな面白いことがあったのよ』と朗らかにおしゃべりするとかね。私も、イヤなことを言われると気に病むほうなので、正直気になってしまうときもあります。でもそういうときこそ、相手も同じくらい気にしてるのだろうなと考えますね。自分がイヤなことは、ほかの人もイヤだろうと考えるのが想像力。マナーと言うと堅苦しいけれど、大好きな家族や友だち、仕事関係の人々と、どんなふうにすればお互い機嫌よく過ごしていけるのか。想像力を働かせるのが大切よね」
角野さんが24歳のときにデザイナーだった夫と自費移民としてブラジルへ渡ったことは、ファンの間ではよく知られた話。いまのように自由に外国と行き来できない、1959年のことだ。彼の地で2年を過ごして帰国するが、その後も世界中の国や都市を旅してきた。その土地ならではのマナーに苦労した経験などはないのだろうか。
「基本的には、どう気持ちよくコミュニケーションするかだから。どこの国でもマナーって同じだと思うんです。言葉が完璧じゃない者同士では特に、言葉の奥にある目に見えないものも含めて、どう受け取るか差し出すか、気遣いは大事ですけれど。それを意識しなくても自然にできて、かつそこに品格やユーモアがあればなおよくて。それはどれだけ小さいときから好奇心を持ち、冒険の心を育て、読書などで自分の中に何を蓄えてきたかの成果ですよね。それが形もないほどに熟成して肥料みたいになったときに、マナーの良さも自然ににじむ。そう言うと『いまさら間に合わないわ』という人がいるわけね。間に合わないではなく、今が大切。ときめく、わくわくする。まず気持ちを動かして暮らすことね。心が動かなければ、何も始まらないじゃないですか。ひとつでも楽しみがあれば人生はすごく生き生きします」