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【後編】食のプロが厳選! 安全でおいしい食品の選び方。

これからもずっと食べ続けたいもの、ひいては次世代にも引き継ぎたい調味料や食品とは。

撮影・岩本慶三 文・神舘和典

今回、山脇さん、手島さん、蟹瀬さんは、砂糖、塩、酢、醤油、味噌、味醂、乾物、米、バター、ハム、かまぼこ……など、それぞれ最高と思って使っているものをどっさり持ち寄ってくれた。さらに、その中から「毎日の食卓に欠かせない3品」も選んでもらった。

手島 では、私から発表します(笑)。丹沢ハム工房のロースハムスライス、山形県にあるおきたま興農舎のつや姫、もぎ豆腐店の三之助木綿豆腐です。

山脇 このハム、おいしい!

手島 直営農場で育てた豚を使って、塩、砂糖、香辛料だけで作ったハムなんです。

蟹瀬 無添加ハムなんですね。

手島 色が市販のものと比べると鮮やかなピンクではないのですが、これが自然な色なんです。直営農場の豚は非遺伝子組み換え飼料とサツマイモを食べて育っているので、お肉自体に臭みがなくてとてもおいしい。だから余分な調味料が必要ないんです。市販のハムの多くは、加工の過程で添加物などを加えるため、元の肉の1・2倍くらいに増えるそうです。でも、丹沢ハム工房の無添加ハムは9割に減ります。儲けばかり考えていたらこうはいかない。おきたま興農舎のお米も収量よりもおいしさと安全性を重視して作られています。長年、有機栽培で土作りをしてきた結果のおいしいお米なんです。

蟹瀬 三之助の豆腐は私も大好き。粗塩をパラパラッとして、オリーブオイルを少量たらせば、それだけで抜群においしいですね。

手島 原料大豆は北海道産の大袖振をはじめとした良質な国産大豆とにがりだけ。豆腐によく使われる消泡剤も入っていない。三之助は油揚げも絶品なんですよ。貴重な国産菜種油で揚げてあるんです。風味がいいから湯通しなんてもったいない。そのまま食べちゃいます。

手島さんの3品は、直営農場で育てた豚を使った無添加ハムなど。
手島さんの3品は、直営農場で育てた豚を使った無添加ハムなど。

山脇 私の3品は、和歌山県にある九重雜さいか賀の吟醸酢、先ほどお話しした「ヤマロク醤油の鶴つるびしお醤」の再仕込み醤油、石川県の福光屋の福みりんを選びました。九重雜賀は日本酒と食酢を造っている蔵です。

ふわふわの酒粕を 2年間寝かせて造った赤酢。

山脇 私の3品は、和歌山県にある九重雜さいか賀の吟醸酢、先ほどお話しした「ヤマロク醤油の鶴つるびしお醤」の再仕込み醤油、石川県の福光屋の福みりんを選びました。九重雜賀は日本酒と食酢を造っている蔵です。

手島 それでこの酢、ラベルに「山田錦 純米100%使用」と書かれているんですね。日本酒と同じ原料。

蟹瀬 これ、赤酢ですね?

山脇 はい。私、赤酢が好きで(笑)。ふわふわに酒粕を搾って、2年近く寝かせると、熟成されてこういう赤茶色になります。酒粕で造った酢はまろやかで旨みがしっかりあります。ほかの調味料は使わずに、この酢だけで野菜炒めを作ると、旨みがわかり、おいしいですよー。

手島 醤油の再仕込みというのはどういう製法ですか?

山脇 鶴醤の場合は、大豆、小麦、麹、塩、水を2年熟成させて完成した生醤油をその段階であえて商品化せずに、再度樽に戻して、塩と水以外の原料を加えてさらに2年寝かせています。

手島 倍の年月をかけるわけですね。

山脇 すごくまろやかになります。ちょっとなめてみてください。

蟹瀬 おいしい!

山脇 かけ醤油をこれに替えるだけで、いつも食べている冷や奴が別の食べ物かと感じるほどおいしくなります。ましてや三之助の「只ひたすら管豆腐」にかけたら絶品です。

蟹瀬 ほんとうにおいしいものは、それを口に入れた瞬間に幸せを感じさせてくれますね。

山脇 蟹瀬さんも味見の大切さをおっしゃっていましたけれど、福みりんはこのまま舌で味わっていただきたい。みりんを味見する人、あまりいないんですけれど、私は教室でも必ず味見をしてもらっています。皆さんびっくりします。

手島 ほんと、おいしい。これはもう、お酒ですね。

山脇 石川県の酒蔵が造っています。本来、みりんはアルコール度数が13度くらいある。市場には酒類の本みりんと、アルコールが1%未満だったり、加糖されたりしている〝みりん風調味料〟が流通していますが、ぜひ本みりんを選んでいただきたい。みりんは発酵食品と間違えられがちですが、本来は醸造調味料です。

山脇さんの3品。木桶まで作っている再仕込み醤油の蔵など。
山脇さんの3品。木桶まで作っている再仕込み醤油の蔵など。
三重県にあるかつおの天ぱくのかつお節 に再仕込み醤油の鶴醤をかける。かつお 節が踊り、香ばしさがひろがる。
三重県にあるかつおの天ぱくのかつお節 に再仕込み醤油の鶴醤をかける。かつお 節が踊り、香ばしさがひろがる。

北海道のよつ葉バターか。フランスのエシレバターか。

蟹瀬 私のベスト3は朝食に必須の3品です。まず、鹿児島県にある空とぶかえる亭(永田商店)の黒酢こんぶ入り合わせ酢。レモンジュースと混ぜて、サラダドレッシングにしています。減塩を意識したときに見つけました。次に、エイチ・アンド・アイがイギリスから輸入しているはちみつ、コッツウォルドハニー。そして、資生堂パーラー 銀座本店ショップで販売されているバルサミコ酢、アチェタイア ラ・ボニッシマです。

手島 とても健康的な朝食ですね。

蟹瀬 これらとともに、ほぼ毎日、焼き芋を食べています。

手島 焼き芋!?

蟹瀬 トーストの代わりです。健康食として。

山脇 ひょっとしたら、小麦やライ麦に含まれているグルテンを避けていらっしゃる?

蟹瀬 そうなんです。おいしい焼き芋を売る店が近所にあるの。週に一度、10本まとめ買いしています。その芋を輪切りにして、北海道のよつ葉バターかフランスのエシレバターを少し乗せて食べる。

山脇 これは安納芋?

蟹瀬 いえ、普通のサツマイモです。

山脇・手島 えー! すごくおいしいですね。

蟹瀬 技術が高いと、こんなふうにケーキみたいに焼きあがるんですよ。農家から直接買ったサツマイモを石焼き窯で焼いているそうです。水分が見事に飛んでいるでしょ。あとははちみつをたらしたスムージーとオリーブオイルで焼いた卵が私の朝食です。繊維質が多くて、お腹もいっぱいになります。

手島 手間を惜しまずに、ビジネスに行きすぎずに丁寧に作っている、生産者の思いが込められている食べ物はおいしいですね。

蟹瀬さんの3品は、朝食になくてはならないお酢とはちみつ。
蟹瀬さんの3品は、朝食になくてはならないお酢とはちみつ。
蟹瀬さんの朝食の定番。石焼き窯で焼い たサツマイモに、よつ葉バターやエシレ バターをとろりと溶かして食べる。
蟹瀬さんの朝食の定番。石焼き窯で焼い たサツマイモに、よつ葉バターやエシレ バターをとろりと溶かして食べる。

ブランドや価格よりも 自分の舌と表記の確認が大切。

本当に質の高い〝食遺産〞といえる食品と出合うには、自分の舌で味見すること、ラベルにある原材料表示を確認すること、生産者を知る努力をすることがわかった。一般消費者が、日本全国の生産者を訪ねることは難しいけれど、書籍やインターネットを通じて信頼できる〝食のプロ〞を見つけ、積極的に情報収集することはできる。

手島 今は商品とともに生産者の名前や顔写真が表示されているお店もたくさんあります。でも、それだけで信用してはいけません。作った人の写真かどうか、本当のところわからないんですよ。

山脇 有名ブランドだからとか、高価だからとか、それだけで選ぶ人も多いですが……。

手島 自分の味覚を信じたほうがいいですね。

山脇 調味料に関しては複合調味料はやめて、まず上質な醤油やみりんを買ってほしい。それだけで今日から料理上手になれますよ。

蟹瀬 ある程度コストはかかりますけれどね。

山脇 「1000円のキャミソールを1枚買うのをやめて、その分いい調味料を買いましょう」と料理教室でいつも言ってます。コーヒーショップの500円のラテは迷わず買うのに、調味料を高いと感じるのはとても残念。

手島 たしかに暮らしもなかなか大変ですけれど、食の未来への投資と思って、こつこつ努力を重ねている国内の生産者の食品を選ぶように心がけています。

山脇 国内でも、海外でも、その土地で、自分の目で見たものを買うのは安全ですね。何より楽しみでもあります。

手島 やはりラベル表記のチェックと、まずは小さめのボトルを買って好みの味かどうかを確かめたり、匂いをかいだりして、自分の感覚を磨くことが大切ですね。

蟹瀬 今日はあらためて学んだことがたくさんありました。私は減塩を意識して、ちょこっとの量で済むように質のいい塩を求めてきましたけれど、味の深みを出すためには、砂糖やみりんも丁寧に作られたものを求めなくてはいけないですよね。それだけではなく、誠実な作り手を応援するためにも、よいと思ったものを買い続けることが食の未来の投資になるんですね。

『クロワッサン』946号より

●手島奈緒さん 食材ジャーナリスト/大地を守る会を経て、ほんものの食べものくらぶを設立。食についてのさまざまな情報を発信。

●山脇りこさん 料理家/料理教室「リコズキッチン」を主宰。調味料マニア。最新刊は『いとしの自家製 手がおいしくするもの』。

●蟹瀬令子さん レナ・ジャポン・インスティテュート代表取締役/博報堂を経て、イオンフォレスト、ケイ・アソシエイツの社長を歴任し現職。

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