『生のみ生のままで〈上・下〉』著者、綿矢りささんインタビュー。 「女性同士のドキドキ感を描きたかった」
撮影・黒川ひろみ
南里逢衣(なんりあい)は25歳の夏、恋人とリゾート地に出かけ、彼の幼馴染とその彼女、荘田彩夏(しょうださいか)に出会う。芸能人の彩夏は、美人だが無口で無愛想、第一印象は最悪だった。しかし、4人で過ごすうちに仲は深まり、旅行を終えたあとも逢衣は彼女と付き合いを続ける。逢衣の結婚話が動きだした矢先、「最初からずっと好きだった」と突然、彩夏に唇を奪われる。
「“生(き)のみ生(き)のまま”という題名だけがパッと浮かんできて、直感で恋愛に主軸を置いた小説にしようと思いました。以前から女性同士の恋愛は興味のあるテーマだったので、よし、これでいこう、と」と綿矢りささん。
「2人のこれまでの恋愛対象は、男性。頭では“あり得ない”と思いながら、どうしても惹かれあってしまう。男女とは違った女性同士のドキドキ感を描きたかった」
信じられるのはお互いを好きだという素直な気持ちだけ。
友だちだと思っていた彩夏からの好意に怒りすら覚え、拒絶していた逢衣。しかし、次第に彼女に惹かれ始めている自分に気づく。それからお互いの想いが通じ合うまで時間は要らなかった。
ーー満たされて、絶望する。この瞬間を恐れながらも、私は待ち望んでいたのだ。ーー
「2人が本能のままに求め合う描写は、一番丁寧に伝えたかったところです。少しの戸惑いと緊迫感がありつつも、情熱的になるよう、丹念に書きました。まずは彼女たちになりきって、とにかく真剣に想像してみる。すると、目の前に映像が浮かんでくるんです。それをただひたすら文字に起こしていくという作業を繰り返しました。ほとんどトランス状態になってしまうくらい、入り込んで書いていたと思います(笑)」
周囲に公表せずとも、ともに暮らし、幸せに満ちた日々を送っていた彼女たちを繋いでいたのは、お互いを好きだという素直な気持ちだけ。それくらい純粋で、儚い関係だった。しかし、芸能人という彩夏の立場ゆえに起きたある出来事が2人の仲を引き裂いてしまう。やがて、7年の時を経て再会を果たすことになるのだが。
「逢衣は、離れている間もその気持ちだけを信じて頑張れた。だけど、絶望した彩夏は、離れ離れになったあとに試練があり……」
さまざまな壁を乗り越えて、2人が最終的に選んだ道を「一番彼女たちらしい選択ですね」と語る。
「これまでの作品に比べると、最後まで間を置かず一気に書き上げています。この本は、女性同士の恋愛という、刻一刻と状況が変わりつつある内容がテーマになっているので、今という時代に出してこそ、意味があるんじゃないかと思っていて。時間を置いてしまうと自分の考えや、書いたことの意味まで違ったように受け止められてしまう気がしたので、“今この瞬間”という鮮度を保ったまま、世の中に届けたかったんです。2人がどうなっていくのか、最後まで見届けてもらえたらと思います」
『クロワッサン』1002号より
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