平野啓一郎さんに聞く、『叫び』だけじゃない、ムンクの魅力。
エドヴァルド・ムンクの作品からインスピレーションを受け、自身の小説の表紙にも採用した平野啓一郎さんに聞く、ムンク作品の楽しみ方。
撮影・黒澤義教 文・上條桂子 撮影協力・ノルウェー大使館
誰が見てもムンクとしか言えない、無二のタッチを持っている画家。(作家・平野啓一郎さん)
窓辺で抱き合う裸の男女。2人の唇も表情も描かれておらず、輪郭線が溶け合っているようにも見える。ムンクの《接吻》から想像が膨らみ、一編の短編小説「透明な迷宮」を書きあげたという作家の平野啓一郎さん。ムンク作品との出合いについてこう語る。
「小説を書き始める時はだいたいそうなんですが、物語の主題を象徴的に表す、クライマックスのイメージとなる“場面”を思い描いて、そこから広げて物語を構想します。国立西洋美術館でエッチングの《接吻》を見た時、ものすごく想像力をかき立てられました。女性がすがりつくようなポーズをとり、男性はそれを受け止めつつも少し気圧されているような印象……。昼間なのか夏の白夜なのかもしれませんが、窓の外は明るく北欧の町並みが少し見えている。決して風景や表情の描き込みが多い絵ではありませんが、だからこそ2人は何故この場所にいるのか? 前後には何があったのだろうかとイメージが湧いてきたのだと思います。そういう意味で《接吻》は、想像力を刺激する文学的な絵だと思います」
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