話題の「フェルメール展」、絵を見る前に知っておきたい基礎知識。
43年という短い生涯のなかで、わずかに35点の作品しか残さなかったヨハネス・フェルメール(作品数は諸説あり)。ファンの間では世界に散ったその作品を求めて“全点踏破”などという言葉が生まれるほどの人気ぶりだが、そのうちの9点が上野の森美術館にやってくる(大阪は6点)。全作品の約4分の1が一挙に見られるこの奇跡を、さあどうしよう。虚心坦懐に眺めるのも絵画の楽しみ方ではある。けれども、一定の予備知識が備われば、その楽しみに、もっと深さが増すのです。
監修・千足伸行(成城大学名誉教授、広島県立美術館館長) 撮影・谷 尚樹 文・石飛カノ
人間関係の手がかりは最小限。際立つのは、色、光、構図。
オランダ風俗画家の中でフェルメールだけがずば抜けて秀でていた、というわけではない。むしろ、
「絵で物語を語るというストーリーテリング的な部分はあまりありません。ある意味でそっけなく、登場人物が笑っている絵も数点しかない。そういう感情表現があまりされない絵で際立ってくるのが、色や光の描写、人物をどこに置くかという構図なんです」
まず、色づかいで特徴的なのがラピスラズリの青。中東原産の宝石が原料のこの絵の具は大変高価。
「中世のキリスト教絵画の聖母マリアの青い衣に、この絵の具が使われていました。そういう高価な絵の具を風俗画に使うことはあまりありません。なにより原価計算に合いませんし(笑)」
さらに、こぼれだす雫のような光の描写。
「ポワンティリスムという点描主義と呼ばれる技法が19世紀に見られます。ですが、17世紀オランダには存在していません。フェルメールが何を見て思いついたのか、これは一種のミステリーですね」
そして、絶妙な人物の構図。
「絵の中の人が増えるほど、ゲームをしたりという人間関係がテーマになってきます。フェルメールの室内画は1人か2人がほとんどで、人間関係の手がかりが少なく、人物の存在が目立つことになる。だから構図が非常に重要。ここしかない、という場所に人物が配置されているんです」
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