『曇り、ときどき輝く』著者、鎌田 實さんインタビュー。絶望せずに未来を切り開く人々の実録集。
撮影・清水朝子
医師として、国内の被災地や世界の難民キャンプへの支援に精力的に出向く鎌田實さん。本書は、そんな鎌田さんだからこそ出会えた人たちの「グッとくる」実話だ。
たとえば、東日本大震災の時、大津波を乗り切った小型船「ひまわり号」の初老の船長は、気仙沼港から大島という島との間の片道25分を、早朝から深夜まで休むことなく往復して、救援物資や人々を無料で運び続け、島を孤立から救った。あるいは、熊本地震で自宅が全壊した益城町の農家の老人は、めげることなく田んぼや仮設住宅の周囲の草取りをして、稲の具合はどうかとの問いには「美しかあ」と一言。半年後に再訪した時には、「壊れたものがあったら、直せる人間は直さにゃいかん」と家を新築していた。また、大阪の釜ヶ崎のドヤ街で暮らす孤児の青年は、自分もつまずいた経験のある算数を地域の子どもたちに教えたいと数学の先生を目指し、寒波の夜は路上生活者のためにおにぎりや味噌汁を配る活動にも加わる。
「路上生活者って、声をかけても聞こえないふりで無視することが多いんです。それが、子どもたちが相手だと食べ物を受け取って、自分の半生を語り始める人も。そこから僕も少しだけ話をできたんですが、その間ずっと、おにぎりを食べずに両手で抱えて、ぬくもりを感じている。その手つきを見たら、もうたまりませんね」
家族の問題も考えさせられる。福岡県柳川市に住む一家は、実子、里子、養子などを含む7人構成。なんでもオープンに平等に、血のつながりはなくても信頼の絆は固く、温かい家庭なのが伝わる。
「実は僕自身、親に捨てられ養子にもらわれて育ちました。僕は書くことが好きな医者ですが、こんなにいろいろなチャンスを与えられたのは、そうした経験から届くものがあるからではないかという気がしています。“普通”って何なんでしょうね。この本の取材から僕が気づかされたのは『普通じゃなくていいんじゃない? それぞれの生き方があっていいじゃないか』ということです」
収録された24話から感じるのは、誰かのためになることは、自分の生きる力にもなること。絶望的な状況でも、光を放つような影響力ある生き方はできるのだ。
「特別な人じゃない。私が出会った主人公たちは、どこにでもいるおじさん、おばさんたちです。でも、生きることに真摯で、真っ当に向き合い、逃げない。それが秘訣じゃないかと思っています」
集英社 1,500円
『クロワッサン』980号より
広告