「捨てれば幸せ」とは限らない、程よくモノのある暮らし。
撮影・青木和義 文・嶌 陽子
やりすぎミニマリストから程よいミニマリストへ。
まずは、上にある写真を見てほしい。引っ越した直後の家? そうではない。7年間、夫婦2人が実際に暮らしていた空間なのだ。
「本当に、ほとんど何もない部屋でした。ソファも、ダイニングテーブルも椅子もなかった。食事は、キッチンカウンターのところで、立って食べることが多かったんです」
そう話すのは、愛知県岡崎市に暮らすライフオーガナイザーの香村薫さん。現在、夫と3人の子どもと一緒に、当時と同じマンションに暮らしているが、その様子は全く違う(下の写真)。ものは少ないながら、家具が置かれ、植物や絵本などが飾られた部屋は、温かみのある、居心地のいい空間だ。以前の“ものが何もない部屋”は、なぜ生まれたのか。そして、今の程よくすっきりした空間に至るまでに、どんな経緯があったのだろうか。
香村さんは大学卒業後、トヨタ自動車のグループ会社に就職。商品企画などを担当し、多忙な日々を送っていた。そんな中、24歳で結婚。夫も仕事が忙しく、お互いに平日の帰宅は深夜。すれ違いの毎日が続くようになる。
「もう少し、自分たちの時間がほしいね、と夫と話し合い、家事の時間を減らす工夫を始めたんです。たどり着いた結論は、“もっとも家事時間の短縮に効果的なのは、ものを減らすことだ”ということ。それから、どんどんものを手放すようになっていきました」
もともと香村さんも夫も、子どもの頃からものに執着しない性質。捨てることに抵抗はなかった。
「それより、家事時間を計ってみて、『ものがないと、一日の掃除時間が3分短縮できた』なんていう達成感を得るほうが、ずっとうれしかったんです」
最初は、テレビやテレビ台、DVDプレイヤーなど、テレビ関連のものを処分。続いてソファやローテーブル、そしてダイニングテーブルと椅子……。次々とものを手放していった。
「子どもの頃からエレクトーンなどを続けていて、音楽が大好きだったのに、ついにはCDとCDプレイヤーも処分。がらんとした家の中で、夫と私の声がよく響いていましたね(笑)」
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