『ラジオ・ガガガ』原田ひ香さん|本を読んで、会いたくなって。
ラジオの「近さ」が好きなんです。
撮影・千田彩子
「ラジオって、チューニングするとき、ガガガって音がするでしょう? それでこんなタイトルにしました」
どこにでもいそうな人の暮らしの、ふとしたきっかけから生まれる切ないドラマを書くのが得意な原田ひ香さん。新作はラジオがさりげなくモチーフとなっている6編の連作短編集だ。自身も昔からラジオが好きでよく聴いている。
「20代のころはJ–WAVEのジョン・カビラさんの番組を聴きながら朝を過ごしていました。いまは、録音できるラジオを2台持っていて、同じ番組を週に2、3回繰り返し聴いています。伊集院光さんやオードリー、バナナマンが好きですね。お笑い芸人さんの本音は、他では聞くことができない面白さがあります」
けっこう深く聴いている、と原田さん。本書の中にも、ラジオで仕入れた、巷で知られていないマニアックな情報が随所にちりばめられている。
原田さんはラジオドラマの脚本で賞を受賞したことがきっかけとなって作家になった。本書に収められている『リトルプリンセス二号』がその受賞作。
骨董市を妻と見て回るのが好きな岡村がみつけた伊万里の白磁の火鉢と新種の睡蓮の種。「訳ありだよ」とささやく骨董屋の言葉にのせられて火鉢を買い、水を張って種を蒔くと、美しい全裸の女性にそっくりな「メシベ」を持った花が咲き、岡村は虜になってしまう……。じつはこの話、聡子という主婦が創作しているラジオドラマという設定。聡子は、子育てのかたわら「ライオン先生のラジオドラマ教室 ブログ」に励まされながら、シナリオライターを目指しているのだ。
「わたしも結婚後、夫の転勤で北海道に行き、主婦をしながらインターネット上でシナリオの書き方を教えてもらっていました」
もっとシナリオのことが知りたくなって、東京に戻ってきてからシナリオの学校に行き、勉強をした。『リトルプリンセス二号』は、受賞後、実際、ラジオドラマとして放送されたが──。
「6話目の『音にならないラジオ』で、なかなか作品が採用されないシナリオライターのことを書きましたが、わたし自身、受賞第1作というのが書けなかったんです。いや、書いたけれど、どれも当たらなかった」
いまはたくさんのエンターテインメント小説を世に送り出している原田さんの、ラジオにまつわる苦い味や懐かしい思い。どの短編もほろりとさせられる。
双葉社 1,400円
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