『アーバンサバイバル入門』服部文祥さん|本を読んで、会いたくなって。
登山と同じで、自力のほうが生活は楽しい。
撮影・森山祐子
登山家で狩猟も行う服部文祥さんは、食料と装備を極力持ち込まず現地調達する「サバイバル登山」で知られる。本書は、彼が2009年から横浜の自宅で家族と実践している、なるべく自力でまかなう衣食住を追った記録だ。
「山登りの思想と同じです。ヘリコプターで山頂に行って “登山した” という人はいないですよね。自分の力で自分の肉体で行うから登山になるし、そのほうが楽しい。生活そのものだって自分の力でやる部分を多くすれば面白くなるはず。おそらく生きるということは本来そういうことではないかと考えていたんです。その頃、ちょうど借家を出ることになり、たまたま土地付きのいい家を見つけ、手探りで始めて、手ごたえを感じながら、自分の希望する生活に変えてきた感じです」
非常時のアドバイスではなく、猟師のような「獲って殺して食べる」日常を送るためのガイドなのだ。野菜や果物の栽培をはじめ、鶏や蜜蜂の飼い方、身近な生き物のウシガエルやザリガニやシマヘビなどのさばき方を詳細な工程写真付きで解説。
「ミドリガメは圧倒的に旨い」との言葉に衝撃を受けるが、「鍋にすると家族がもくもくと食べるほど」で生態系を脅かす外来種問題も「みんなが食べれば解決する」。読み進めると、固定観念を覆されてばかりだ。そうして自分でまかなえる食料は1、2割程度というが気づくことは多い。
「健康なものが、あたりまえだけれど旨いんです。薬が入っているようなものは食べたくないと思うと同時に、いろいろ病気があって薬を飲んでいる人間は肉としては食べられないなとか、僕自身はちゃんと旨いのかどうかとか、いろいろと考えてしまう。安いからとうかつに不健康なものを食べるのは、自分を安っぽく不健康にしている以外のなにものでもない。さらに、まともな食べ物を作っている生産者を否定してしまうことにもなる。自分の健康と将来を守るために、ある程度のお金を払ってちゃんとしたものを買うべきと、この生活に教えられました」
他人の生活や意見を変えたいという啓蒙書ではなく、淡々としたトライアルの記録なのが、かえってこちらの心をざわつかせる。
「面白いからやってみたらどうですか?という思いです。見えてくること、考えること、感情や体験、いろんなものが身体に残って、生きているのが楽しくなります。砥石で包丁を研ぐことから始めてみるだけでも違いますよ」
デコ 3,000円
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