『白い犬』梅 佳代さん|本を読んで、会いたくなって。
ぎゅっと本を開いてすみずみまで見てほしい。
撮影・森山祐子
おどけて変な顔をする小学生男子の姿や、自身の家族の自然な、そして笑える姿を撮り続けて人気の写真家、梅佳代さん。彼女の新刊は、石川県の実家で飼っていた犬のリョウを撮りためたものだ。リョウは弟が野球部の寮から拾ってきたメス犬で、17年間、梅家の一員として暮らしていた。そして最後はいちばんなついていた梅さんの父に挨拶するように寄り添い、そして山の中に消えて行った。
「老衰でそろそろ死ぬと思っていたけど、もしかしたら山の中でそのまま生きとって、人間の言葉を話したりするようになってたらなー、って。でも家族はみな『リョウは死にに行ったんだな』と思ってます。実に立派な幕引きやった」
ただかわいいペットを撮った写真、ではないのがこの本の特徴のひとつ。写真学校に行くために実家を出たあとに飼い始めたから、梅さんにとってのリョウは“妹の友だち”的な存在なのだ。
「実家に帰っては犬を撮っていましたが、犬は言葉が通じないから、人を撮るときとは距離感が違いますね。犬は犬、と思っているし、愛玩的ではない動物写真を私自身見たかった。とはいえかわいい写真もいっぱいあるんですよ、でも今回一冊にまとめるにあたって、流れにうまくハマらなくて泣く泣く落とした写真もあります。それは今後、別の写真集に載せるかも」
全体は成長順に並べているわけではなく、野生の頃に始まって徐徐に家の中に入って家族になじんでいる様子、そして梅さんの祖母の死のあたりでモノクロページになり……と流れていく。
「ばあちゃんが死んだとき、家に知らない人がいっぱい訪ねてきたけど、リョウが全然吠えなくてびっくりした。普段だったら知らない人にはワンワン吠えるのに、さすがに状況が通じたのかな、スゴイな犬、って思いました」
写真の見せ方として、写真集を作るのがいちばん好き、という梅さんからひとつ、お願いがある。
「友人にこの写真集を見せると、みんな両手で持ってパラパラ、って感じで見るんです。でもそれだと写真の全体像が見えへんでしょう? 私のクセで、被写体をど真ん中に置いて撮ってしまうので、見開きの真ん中にリョウがおるような写真が多いんですよ(笑)。里山風景の写真かな、って思っても、本をしっかり開くとページとページに埋もれるようにリョウがおるから! だから本が折れるとか気にしないで、机に置いてぎゅっと開いて見てほしいんです」
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