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『大沼ワルツ』谷村志穂さん|本を読んで、会いたくなって。

家族の温かさは、何にも代えられない財産。

たにむら・しほ●1962年、北海道生まれ。1990年『結婚しないかもしれない症候群』がベストセラーになる。デビュー作の『アクアリウムの鯨』ほか、『海猫』『余命』『黒髪』など著書多数。今作は構想から5年の歳月をかけて書かれた渾身の作。
たにむら・しほ●1962年、北海道生まれ。1990年『結婚しないかもしれない症候群』がベストセラーになる。デビュー作の『アクアリウムの鯨』ほか、『海猫』『余命』『黒髪』など著書多数。今作は構想から5年の歳月をかけて書かれた渾身の作。

撮影・森山祐子

北海道・函館から足を延ばして行ける自然豊かなリゾート地、大沼。3つの湖がある景勝地を舞台に、三兄弟と三姉妹が結婚した大家族を描いたのが『大沼ワルツ』。この設定は実話に基づいている。

「初めて話を聞いたときは、兄弟姉妹同士の結婚に驚きを隠せませんでした。本の中に描いた長男・長女夫婦に生まれた〝男の子〟が今は海外でも活躍する建築デザイナーなのですが、そのかたに私の函館の家のデザインを依頼したのがきっかけです。出身地や家族の話の中で、大沼の三兄弟に山梨の三姉妹が順に嫁いでひとつ屋根の下で暮らしていた、と聞いて。『その話を小説にさせてください』とお願いしたんです」

そして谷村志穂さんは、綿密な取材を進めた。まず80〜90代になった今もとても元気で毎日一緒にお昼ご飯を食べる三姉妹を訪ねた。出来上がった料理はいつも美味しそうだったし、家族の思い出にあふれていた。

「図々しく何度もお昼に混ぜてもらって(笑)。ご長男は写真が好きで、アルバムがきれいに揃っていました。一緒に見せていただいて、登場人物たちのイメージが広がりました。本に描いたとおり、三姉妹は本当に朗らかで、そして強さを兼ね備えている。もしも他の場所に嫁いだとしても、きっと幸せを見つけられる女性たちだと思うんです。彼女たちは大沼の自然と自由な空気をどんどん吸収し、今いる場所をよりよくしていく工夫をそれぞれの夫婦が懸命に取り組んだ。その上でこの家族は本当に暮らしを楽しんでいたのがわかったので、書いている間、私もとても満たされていました」

谷村さんが描きたかったのは、新しい土地で生きていく人たちの強さ、そして恋愛が持つパワー。

「3組の夫婦の固有の出会いにまず惹かれました。長男と長女の恋愛をきっかけに、妹たちを山梨から遠い北海道に呼び寄せたり。たった一つの恋愛がこんなにも人生を変えるというのが印象的でしたね。芯の強い、静かな大恋愛。そして自分も家族を持った今だからこそ、家族というものを、臨場感を持って描けるかな、というところもあって。家族って厄介なところが面白いものだから」

谷村さんにとっては昔からなじみのある大沼の地。好きなところは何年経っても変わらない。

「湖の間を汽車で抜けると一面に絶景が広がって、まさに別天地。日の沈む時間にカヌーに乗るのは至福の時間です。あの絶景、水の良さ……本当に魅力的な土地で、物語にも出会えたんです」

小学館 1,600円
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