『君とまた、あの場所へ シリア難民の明日』安田菜津紀さん|本を読んで、会いたくなって。
顔の浮かぶ誰かの痛みに思いを馳せて。
撮影・森山祐子
「一昨日の夜に、イラクから戻ったばかりなんです」
そう言いながらパワフルな笑顔でインタビューの席についたのは、フォトジャーナリストの安田菜津紀さん。中東や国内の被災地など、世界中の貧困や災害を取材し続ける安田さんの最新の著書は、シリア難民の生活を写真と言葉で綴った渾身のルポルタージュだ。
「大学時代にボランティアを通じてイラク人の少年と出会ったのをきっかけに、初めてシリアを訪れました。そこで触れた人の優しさと街の美しさはあまりに素晴らしくて。だからこそ、内戦により故郷を追われたシリアの人たちの悲しみは想像を絶するものだと思いました。〝伝える〟ことで、少しでも状況が良くなる可能性を増やせたら、と取材を続けています」
2013年頃から、シリアの隣国・ヨルダンに何度も足を運び、避難中のシリア人の家庭に滞在させてもらいながら話を聞いた。安田さんが伝えるのは、ニュースが報じる過激な事件や悲惨な数字ではなく、難民たちの生活、そして、取りこぼされてしまう小さな声だ。
「事件はニュースになるけれど、難民がまだ帰れていない、という常態化したものは、時間が経つほど問題の根は深くなるはずなのに、伝えられる機会は減っていく。彼らの日常をとらえることが、問題の本質に近づくことであり、情報に触れる人たちへ間口を広げることにもなると思うんです」
難民キャンプで無邪気に遊ぶ子どもたち、再会を喜び抱き合う親子、病室のベッドの上の少年……。写真の中の表情には、一人ひとりの人生やストーリーがあって、それは決して〝難民〟という言葉でひと括りにできるものではない。
「写真という〝窓〟を通して個人と出会うことで、見る人に、遠い国の問題ではなく、顔の浮かぶ誰かの抱える問題として感じてもらいたいんです。シリア難民のニュースが流れたら、あの笑顔の可愛い女の子は今、どうしているだろう?というふうに」
最後に安田さんは、こんな話を教えてくれた。震災直後の岩手・陸前高田を訪ねると、仮設住宅に住むおばあちゃんたちが難民のために洋服を集めてくれたという。
「ある日、故郷が傷つき、生活が変わってしまう。その痛みを経験したからこそ、人の痛みにも思いを馳せてくれた。被災者だけじゃなく、あの惨事を目の当たりにした世代として、私たちも外に向かってそういう想像力を働かせることができると思うんです」
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