【承香院さんの五感で楽しむ平安ガイドvol.7】文具としてだけではない! 硯箱には、実はこんな使い方も
撮影・青木和義 構成&文・中條裕子
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平安の貴族たちにとって身近な道具だった硯箱
硯箱といえば、硯や墨、筆といった書道に必要な道具を入れるもの。その程度のことは知っていても、普段使いしているひとはそう多くないのでは。けれど、手紙や歌を日常的にやり取りする、平安時代の貴族たちにとっては必要かつ身近な道具でした。そのため、華やかな装飾が施され、硯箱は調度品としても愛されていたのだという。
「これは私が愛用している硯箱です。実際にこれを使って、気分よく仮名文字の練習などをしております」と、承香院さん。
承香院さん愛用のこの硯箱も、華やかな蒔絵が施された美しいもの。蒔絵とは漆器の表面に漆で絵や紋様を描き、乾かぬうちに金銀の粉を蒔いて定着させる技法。こうした装飾は、平安時代以降に発達したものだといいます。
大和絵らしい線の柔らかさのある蒔絵
「こちらの硯箱は紋様を立体的に盛り上げる高蒔絵という手法で仕上げられており、平安時代のものとは異なりますが、当時の絵画の描き方に通じるものがあるのではと思っています」
たとえ時代が下ってはいても、蒔絵には平安らしい線の柔らかさがあるのだと、承香院さん。
「私は大和絵にあるような、平安時代から脈々と残ってきた蒔絵の優しい線の描き方が好きなのです。この硯箱にも、花びらや葉のしなり、みずみずしさが伝わる独特の柔らかさがあります」
そうした承香院さんの言葉を聞いて、改めて見てみると、花びらの線はもちろんのこと、葉の葉脈までが細やかに描き込まれ、その繊細さに気付かされます。
ふたの裏側にもまた、繊細な紋様が……
こうした硯箱には、平安時代には筆や墨、硯のほか水差しや小刀などを入れていたのだという。なぜ小刀がここに?と思うけれど、筆先を整えたり、料紙をカットするのに使用するなど、何かと必要なものだったとのこと。硯箱は調度品であり、かつ身近な道具だったというのも納得です。
そして、豪奢な花の蒔絵が施されたふたを裏返して見ると……漆の地に金粉をちらす梨地(なしじ)といった技法で仕上げられているのがわかります。
「ふたの裏側もすてきなんです。梨地に蝶が舞っているのですが、よく見ると羽の中の模様までが描かれている。そして、同じ金でも、赤っぽいもの、青っぽいものを使い分けていて。同系色でありながら、微妙に変えているところも好きな点です」
「ちなみに、この硯箱に入っている左側の筆は天平筆といいます。奈良時代には写経をする際に使われていたもの。軸の部分は斑竹(はんちく)と言って、同じようなものが正倉院の宝物にもあるんです。竹に模様がまだらに入っているのを、当時の人は好んだようですね」
そんな文房具をあれこれ収めていた硯箱だけれど、実は平安の貴族たちはまた別の用途としても使っていたことが、『枕草子』などに綴られている。
硯箱のふたをお盆の代わりにしていた
「硯箱のふたにお菓子を載せて届ける話がそれ。清少納言が端午の節句の準備をしていると、青ざしというお菓子が届けられたので、それを硯箱のふたに薄紙をしいて載せ、中宮定子に贈ったという。『枕草子』は清少納言の体験談が書かれているので、リアリティがありますよね」
確かに、実際の光景が目に浮かぶよう。日常のあれこれを綴った今でいうエッセイのような『枕草子』には、当時の暮らしぶりがそこかしこに散りばめられているのも楽しいところ。
「彼らは本来の用途とは違う使い方を平気でするんです。硯箱なんだけど、そのふたをお盆にするだとか。高くて手が届かないときには、碁盤を台にするだとか。今だと碁盤に乗ったら怒られそうですが、ちょうどいい高さであれば彼らは平気で上る。そういう無邪気な感じがいいですよね」
硯箱をお盆代わりに?と当初は思ったものの、美しい装飾が施されていて、お菓子などを載せるにはもってこいのサイズ感。実際に載せてみると、しっくりと収まる感じ。話を聞いているうちにいつしか、確かにこれは使わない手はない、という気持ちになってくるのもなんだか不思議です。
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