迷うたびに何度でも思い出す。私を強くしてくれた特別な“言葉” vol.1
イラストレーション・花岡 幸 文・長谷川未緒
はてしなきおもひよりほつと起きあがり栗まんじゆうをひとつ喰べぬ
──岡本かの子歌集『浴身』より
東(ひがし) 直子さん 歌人
「横になって果てしなく考え続けていたが、ふっと起き上がり、栗まんじゅうを一つ口に入れた」。結論の出ない考えはいったんやめにして、気持ちを立て直したことが「栗まんじゅう」で象徴されています。生きることの楽しさや勇気がじんわり体の内側から立ちのぼってくるようで、落ち込みそうなときも「まずはおやつでも食べよう」と、この歌を思うと前に進んでいけるんです。
未来は過去を変えられる
──理論物理学者・佐治晴夫さんの言葉より
引田かおりさん ギャラリーオーナー
過去に失敗や後悔する出来事があったとしても、未来の「今」が幸せなら、あれがあったから今があると思えることに気づかせてくれました。仲の良い両親のもとで普通の家に育っていたらよかったのにとずっと思って生きてきましたが、自分の夫や家族を大切にすることで、そんな過去も反面教師と思えるようになりました。
でも、やるんだよ
──とある場で居合わせた方のつぶやき
植本一子さん 写真家
後々調べたところ、漫画家・根本敬さんの言葉の引用のようです。その方が自分に言い聞かせるようにつぶやいた言葉に、目の前が開かれる思いがしました。勇気が湧かず、自分の中に閉じこもることは簡単ですが、少しでもいいから何かを変えてみたいと思うときは、失敗してもいいから進んでみようと、背中を押してくれます。
十人十色
──ことわざより
門倉多仁亜さん 料理研究家
日本人の父とドイツ人の母を持ち、2つの国の文化の違いによく振り回されました。でもある日、正解はなくてただ違うだけなんだと気がつきました。だからコミュニケーションをとって互いを知ろうとする努力が大事で、人を尊重し、その人の考え方に心を寄せてみると自分の世界もまた広がります。今では違うことに驚かれたら、いろんな場面で自分の考え方を話すようにしています。
繰り返しを恐れてはいけない
──雑誌編集者からかけられた言葉
飛田和緒さん 料理家
料理の仕事を始めたばかりのころ、常に新しいレシピをと意気込んでいた私に、新しいものばかりでなく、ずっと大切にしている料理を繰り返し伝えていくのも飛田さんの仕事ではないかと言ってくださいました。仕事を続けていくこと、家族のことなど、日々の暮らしの中でちょっと立ち止まってしまうとき、勇気づけてくれる言葉です。
小学校の体育館に貼ってあるような言葉が大切だ。
──大先輩である、松村書店店主・松村さんからの教え
森岡督行さん 森岡書店店主
かつて、神保町の古本屋での修業時代。勤務先の隣だった『松村書店』店主の松村さんがよく言っていました。例えば、「明るい、誠実、素直」、こういった体育館にあるような言葉が大切なんだ、と。そしてそれは、受験勉強では決して身につかないし、また、どんな知識や技術とも同じくらい、身につけるのが難しいんだ、と。この仕事を始めて28年。松村さんの言葉は本当だったのではないかなと思えるようになりました。失敗したときはすぐに忘れ、ダメ出しを得たときは素直に反省したいと思うようになりました。
ぼくはいつでも、あれかこれかという場合、これは自分にとってマイナスだな、危険だなと思う方を選ぶことにしている。
──岡本太郎著『自分の中に毒を持て』より
花田菜々子さん 蟹ブックス店主
人生において大きな決断を迫られているとき、ほとんどの場合はハイリスクでチャレンジングな道と、リスクや変化の少ない道の間で迷っていて、前者に行く勇気が足りないときに、「迷っている」と感じるのではないでしょうか。岡本太郎のこの決め方を知って、驚くと同時に不思議な納得感がありました。人生の指針となり、この10年で独立や自著の出版など、多くを経験。大変でしたが、たくさん新しい世界に行くことができたと思います。
『クロワッサン』1156号より
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