わが家に神様を迎えたい! 神棚を祀るための入門ガイド
撮影・兼下昌典 イラストレーション・高田昌耶 文・小林百合子
10年ほど前に自宅に神棚を設けたブランディングディレクターの福田春美さん。今も毎日お参りをし、生活に欠かせない存在になっているそう。
「仕事柄、様々な分野の方にお目にかかるのですが、手仕事で素晴らしい作品を生み出す方、事業で成功を収めている方の多くが、自宅やアトリエ、オフィスに神棚を祀っていたんです。それで自分もと思ったのがきっかけ」
通販でシンプルな神棚を買い、本や人づてに作法を学びながら、自分なりに丁寧だと思える方法で整えてきた。
「お神札(ふだ)は伊勢神宮と出雲大社のもの。神具は自分が好きな作陶家が手がける白い陶器を使っています。榊(さかき)立ては徳利を利用し、米や水を入れる平皿には〈アスティエ〉など洋食器を使うことも。気分で変えることもあります」
神棚を設けてから、日々の心持ちにたしかな変化があったと振り返る。
「毎朝のお参りでは、うれしかったことや、今考えていることを報告し、重要な仕事がある日には、よきにお導きくださいと伝えます。翌日にはまたいろいろ報告して、うまくいったことがあれば、感謝をお伝えします。そうして日々ありがたいなという気持ちを持つ習慣が根づくと、他者や食べもの、今ある環境、様々なものやことに対して素直にありがとうと思えるようになりました。そんな姿勢でいると、私生活も仕事も自然とうまく回る。神棚が教えてくれた、大切なことです」
神棚は、神様と自分をつなぐ“小さな神社”
そもそも神棚とはどういうものなのだろうか。三重県伊勢市で神棚や神具を造る『伊勢 宮忠(みやちゅう)』の代表であり、神職も務める川西洋介さんに聞いた。
「神棚とは天照大神(あまてらすおおみかみ)をはじめとする神様をお祀りするための場所で、お神札を納めるお宮と棚板、神具を含めて神棚と呼びます。お神札は神様が宿る『依代(よりしろ)』、御神意をお受けするもの。神棚は自宅や会社に神様をお招きし、建物や空間を祓(はら)い清め、正常に保っていただくための『小さな神社』といえます。神棚に日々手を合わせていると心が鎮まり、『今日もありがとうございます』という感謝の気持ちが自然と湧いてきます。神棚とは『神と心をつなぐもの』なのです。
家に神棚をお祀りするにあたり、いくつかの禁忌(きんき)や最低限の作法はありますが、そこまで厳格なルールはないと思ってください。細かい作法より大切にしていただきたいのは、神様を敬うという心持ちです。神棚は神様が鎮座する場と考えたら、暗く、人けがない場所にお祀りするより、明るく風通しがよく、いつも人がいる場のほうがいいですよね。最近は様々な材質の神棚がありますが、安価な樹脂製よりきちんとお祓いされた天然木のほうが、きっと神様も居心地がいいでしょう。『できる限り丁寧に神様をお迎えするには、どうしたらいいか』、それを自分で考え、決めることが、神棚を祀る際に最も重要なことなのです」
スペースとスタイルで選ぶ、はじめての神棚
「どうしたら神様が心地よくいられるか」を念頭に
【設置する】
明るく、清潔で家族が集まる場所に
設置の際に考えたいのは「神様を丁寧にお迎えし、心地よくお過ごしいただくには?」ということ。暗くて湿気が多い、人がいなくて寂しいなどの場所だと神様も居心地が悪いですよね。また神様の上をまたぐのは失礼ですから、目線より高い位置に設けます。あまり高い場所だとお供えものの交換が大変なので、ほどほどの高さに。日本では北を上座にする風習があるので、神様を上座にして南向きに設置することが多いです。仏壇と向かい合わせにすると神棚に拝礼する際に仏壇にお尻を向けることになるので、別の部屋か、上下に設置する場合は仏壇の真上ではなく、少し左右にずらしましょう。湿気が多い場所やトイレと隣り合わせのスペースでは神様もきっと居心地がよくないと思いますので、避けるのがいいですね。天然木でつくられた神棚は湿気で変形することがあるため、浴室付近など水回りもおすすめしません。
上層階を人が通るなら「雲」を設置しましょう
戸建ての1階やマンションの下層階などに住んでいる場合、神様の上を人が通り過ぎることになり、上層階にいる人よりも低い位置に神様をお招きすることになってしまいます。そんなときは神棚の上部に「雲」と書いた紙や、文字をかたどった木彫りを設置するといいでしょう。これは「神棚より上には空以外に何もありません」と神様を敬う気持ちを表すものです。また神棚を設置する日取りには大安吉日がいいという考えもありますが、基本的には自分が「ハレの日」だと思うタイミングで構いません。日没後よりは日が高い時間帯がベターです。
納めるお神札は3種類。ひとつなら神宮大麻を
納めるお神札は3種類で、まずは日本全国をお守りくださる総氏神様、伊勢の神宮の神宮大麻(じんぐうたいま)です。全国の有人神社ならどこでもお受けすることができます。次に氏神神社のお神札で、自分が暮らす地域をお守りくださる神様です。氏神神社がわからない場合は各都道府県の神社庁で教えてもらえます。最後が崇敬神社のもので、血縁や地縁と関係なく、個人的に崇敬する神社です。3枚重ねて納める場合は手前から神宮大麻、氏神神社、崇敬神社の順に。横に並べる場合は中央に神宮大麻、向かって右側に氏神神社、左に崇敬神社のお神札を納めます。
【お供えをする】
基本は米、塩、水、酒。榊はほかの常緑樹でも
神棚にお供えするものを「供物(くもつ)」または「神饌(しんせん)」といいます。基本はお米、お塩、お水で、できたらお神酒(みき)もあるといいでしょう。理想は毎朝取り替え、家族の食事に使うこと。夜、神様が清らかな気持ちで休めるよう、夕方には供物を下げるのがいいとされます。正方形の三方(さんぽう)(台)にのせる場合の一例としては、中央にお米、その後ろにお神酒を。手前の右手にお塩、左手にお水をお供えします。長膳(ながぜん)の場合は中央手前がお米です。
死にまつわるものは不浄。神棚に置くのは避けて
神棚に置いてはいけないものを挙げるとしたら、家族やペットの遺骨や遺灰などです。神道では「死」にまつわるものは不浄とされているからです。受験票やお守りなど、神様の力を宿していただきたいものを一晩置いておくなどは問題ありません。供物に関しては不殺生の考え方から牛や豚などの動物の肉は避けるのが一般的。自分が暮らす地域でとれた作物や魚など、季節の新物をお供えして、恵みに感謝するのもいいでしょう。
【お参りをする】
できれば朝と夕の2回、二拝二拍手一拝が基本
神棚のお参りの作法は神社と同じく「二拝二拍手一拝」が基本。「拝」とは直立の姿勢から90度に腰を折って、頭を下げる動作で、これを2回。その後、胸の高さで2回拍手します。手を下ろし、最初と同じように頭を1回下げます。朝に家族の健康と安全を願い、夕方に平穏無事に一日を過ごせたことを感謝します。神様に感謝を伝えるお参りですから、流れ作業で済ますのではなく、ひとつひとつの動作を止めて、丁寧に行いましょう。
神様へのお願いごとは感謝を伝えたあとに
お参りの際に「願いごと」をしてもいいかと聞かれますが、日々の生活への感謝をきちんとお伝えした上であれば、具体的なお願いごとをしてもいいでしょう。神道では因果応報の戒めがありますので、恨みごとなどはあまりお伝えしないほうがよいのですが、日常のちょっとした愚痴であれば相談してもいいかもしれません。神様を“身近な相談役”として捉えて日々胸の内を聞いていただくというのも、神棚のある暮らしのいい点でしょう。
お手入れの際にも敬意を忘れずに! 譲渡には注意を
神棚の掃除は必ず毎日する必要はなく、埃が目立つときなど適宜行います。神棚専用のハタキやふきんを用意し、掃除の前には「失礼します」とひと声を。神具などを下ろす際には床ではなく机に置き、お神札は半紙など白い紙に包んでおくといいでしょう。また親族や知人などから神棚を譲り受ける際には神社で改めてご祈祷を受けることをおすすめします。神棚を処分するときは神社でお焚き上げをしてもらいましょう。
『クロワッサン』1156号より
広告