堺 雅人さんが語る、映画『平場の月』──「いくつになっても恋愛って面倒くさいものなんですね(笑)」
撮影・小笠原真紀 スタイリング・mick(Koa Hole inc.) ヘア&メイク・保田かずみ(SHIMA) 文・黒瀬朋子
近年は使命を背負った勇ましい役の印象が強い堺雅人さんだが、最新作の映画『平場の月』では一転、冴えない中年男役。離婚をし、地元に戻り印刷工場に再就職した青砥(堺さん)は、中学時代の初恋の相手・須藤(井川遥さん)に再会。恐る恐る距離を縮めていくという等身大の大人の物語。原作は大ヒットした朝倉かすみさんの小説である。
「朝倉先生には『青砥がいい感じにカッコ悪くてよかった!』と言っていただきました(笑)」
50代なりに人生の苦渋を味わい、病気や介護、しがらみを抱える主人公二人は相手を慮るばかりに踏み込めない。
「中年になってもスマートにはいかず、中3の初恋の時ともどかしさは変わらない(笑)。いくつになっても恋愛って面倒くさいものなのだなと思いました」
演じる前に徹底して準備をすることで有名な堺さんだが、原作探究もレベルが違う。青砥目線、須藤目線、身体描写、時代背景や舞台の朝霞市と東京の関係、元妻の経歴まで、研究書が書けそうなほど多角的に読み込んでいた。
「ものすごく緻密に書かれた小説なんです! 読めば読むほど味わい深くて」
探究心旺盛。インタビュー中も『クロワッサン』の由来を逆取材され、創刊時の時代背景を伝えると、「なるほど!」と目を見開いて納得していた。映画では初恋時代も描かれるが、ちなみに中学時代の堺さんはブラスバンド部の部長でホルンを吹いていたらしい。
「僕には音楽の才能はないと、その時に悟りました」
芝居を始めたのは高校の演劇部から。
その後、『平場の月』の土井裕泰監督ほか数々の演劇人を輩出した早稲田大学演劇研究会に入り、頭角を現す。
「小劇場ブームでプロへの道が開かれていると思われていた時代。本気で取り組んでいました。劇研の数年間は修行期間というか出家するような気持ちで入ったので、くだらないことも含め、多くの経験をしました。当時のお客さんに育てていただいたと思っています」
映画や演劇は、観るよりもとにかく演じることが好き。仕事が趣味と語る。
「台本を読むのも、どう演じようかと考えるのも、共演者やスタッフとのやりとりも全て楽しいです。それは始めた当初から変わりません。自分が夢中になれるものを見つけられたのはすごく幸せだと思います。感謝しています」
楽しいことに素直に向き合い、語る堺さんの目はまるで少年。探究すれば世界はいくらでも広がっていくのだ。
『クロワッサン』1153号より
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