暮らし巧者の5人がお薦めする、心ふくよかになる老舗の日用品
撮影・原田教正 スタイリング・白男川清美 書き文字・植本一子(ペリカンの万年筆 スーベレーン) 文・長谷川未緒
民芸イタヤ工房のかごバッグ
工芸品へと昇華した200年の伝統技術
イタヤ細工は角館町地区で生産されている秋田県指定の伝統的工芸品だ。イタヤカエデの若木を裂いて帯状にし、手で編み上げていく。約200年前から農具作りの技術として発展してきたと伝えられている。かつては20数軒で作られていたが、現在は「民芸イタヤ工房」のみが販売、角館の武家屋敷・松本家では実演も。大橋利枝子さんが惚れ込むかごバッグは、軽く、並んだ白木の網目が美しい。
オゼキのAKARI
アーティストの想いを具現化する職人の技
1891(明治24)年より岐阜提灯の伝統技術を継承してきた「オゼキ」。〈AKARI〉シリーズは、岐阜提灯に関心を寄せていた彫刻家のイサム・ノグチがオゼキを見学したことを契機に1952年に誕生。光をやわらかく拡散させる和紙の性質により、はかなさという日本らしい美意識に彩られた光の彫刻となっている。〈1AT〉は、モダンで小さく折り畳めるところが贈り物にも最適、と日野明子さん。
和光のイニシャルハンカチーフ
白の上質なリネンは幅広いシーンで活躍
「和光」は1881(明治14)年創業の「服部時計店」(現セイコーグループ)の小売部門として1947(昭和22)年に設立された。1932年に建設された時計塔のある建物で1952年から営業を開始し、東京・銀座のランドマークとなっている。地曳いく子さん愛用の和光オリジナルのイニシャルハンカチーフはヨーロッパ原産のリネンを日本で織り上げたもので、イニシャル13種が揃う。
ペリカンの万年筆 スーベレーン
高い技術力が支える心地よい書き心地。
ドイツの筆記具メーカー「ペリカン」は1838年創業、1929年より万年筆の販売を開始。抜きんでた精密性で、絶大な信頼を寄せられている。〈スーベレーン〉はドイツ語で“卓越した”という意味を持つ代表製品だ。手にしたときのバランスの良さと完璧なインクフローで、なめらかな書き心地が味わえる。一田憲子さんは大切な取材依頼の手紙には、このスーべレーンを使っているという。
SUWADAのつめ切り
全工程、職人の手による切る機能を極めた逸品
1926(大正15)年、釘の頭を切る「喰切」という道具の製造により創業した「諏訪田製作所」。刃と刃を合わせて切るニッパー型刃物の製造に特化し、20種類以上のつめ切りを生産。〈CLASSIC〉はスタンダードモデルで、一田さんは、30年以上使っているのに切れ味がまったく変わらない、と絶賛する。切った爪の断面は、やすりがけがいらないくらい滑らかに整い、爪への負担も少ない。
飛驒産業の座椅子
しっかり腰を支えるミニマルなデザイン
古くから豊かな森林文化を育んできた飛騨高山の地で1920(大正9)年に創業した「飛驒産業」は、曲木の技術を持った木工家具のトップメーカーだ。日野さんが、持っているだけで我が家の自慢と語る〈畳座〉は、デザイナー・原研哉氏の手によるもので、2008年に発表された。曲木技術を存分に活用した一筆書きのようなデザインは、ユニークで、腰を支えるという機能に注力している。
東京鳩居堂の季節の花の一筆箋、はがき
大切なあの人へ贈る手書きのぬくもり
もとは薬種商として1663(寛文3)年に京都寺町で創業した「鳩居堂」。薬種と香の原料が共通することから薫香線香の製造を、また薬種の輸入元だった中国から書画用文具を輸入、販売を開始。以来、お香と和文具の専門店として愛され、1880(明治13)年には宮中の御用のため銀座本店を開業した。和紙の風合いのある四季に彩られたはがきや一筆箋は、地曳さん、引田かおりさんが季節ごとに愛用。
白木屋傳兵衛の江戸長柄箒 特上
未来へとつなげたい江戸っ子の用の美
かつて竹屋が並ぶ竹河岸だった東京・京橋で、江戸箒を作り続ける「白木屋傳兵衛」は1830(天保元)年の創業。コシのある穂先は隅まできれいに掃ける。日野さん曰く、店に足を運べば店主一家がちゃきちゃきの江戸っ子の雰囲気を醸しつつ、長年の経験からアドバイスをくれるそう。電気不要で、畳、フローリング、絨毯にも使えて自然に還る素材の箒は、現代にこそ必要な道具だ。
オミノ洋傘店の竹ハンドルの長傘
広げたときの優雅さは大人にこそふさわしい
1930(昭和5)年に東京・吉祥寺で創業した「オミノ洋傘店」。日本製の傘を中心に、手頃なものから高品質なものまで1200本以上の品揃えを誇る。アンブレラマスターが好みに合う傘選びをサポートしてくれるのも心強い。引田さんが一生ものと語る竹ハンドルの傘は、大きめサイズながら8本のフレームとシャフト(芯)がカーボンファイバー製で、とにかく軽い。12色のカラー展開も上品だ。
ジョンストンズ オブ エルガンの大判カシミヤストール
伝統と文化が誇る温かさと柔らかさ
「ジョンストンズ オブ エルガン」は1797年にスコットランドで創業して以来、原毛の厳選から紡績、機織り、編みまで一貫して手がけているメーカー。2013年にはエステートツイードの製造者として英国王室御用達にも認定。地曳さんがコート代わりに羽織ることもあるというストールは、100%カシミヤ製。やわらかくて滑らかな肌触りは、身につけた瞬間、幸せな気分を味わえる。
引田かおり(ひきた・かおり)さん 『ダンディゾン』『ギャラリーフェブ』オーナー。東京・吉祥寺でパン店とギャラリーを営む。『Love Myself』(大和書房)が10月下旬刊行予定。
地曳いく子(じびき・いくこ)さん スタイリスト。実践的でちょっと辛口なアドバイスにファンが多い。著書に『60歳は人生の衣替え』(集英社)などがある。
日野明子(ひの・あきこ)さん 「スタジオ木瓜」主宰。企画卸業。10月21日まで東京・六本木のリビング・モティーフで開催している『日本の道具』展に企画協力。
大橋利枝子(おおはし・りえこ)さん 「fruits of life」デザイナー。スタイリストとして活躍後、50代に入った2018年に自身のブランド「fruits of life」を立ち上げる。
一田憲子(いちだ・のりこ)さん 編集者、ライター。編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。近著に『小さなエンジンで暮らしてみたら』(大和書房)。
『クロワッサン』1150号より
広告