“進化”と“不変”、どちらも共存する「銀座」老舗めぐり。そぞろ歩けば街の人に愛される店がいっぱい
撮影・小川朋央 文・池田祐美子
銀座
『三越』や、今年開店100周年を迎える『松屋』など、ランドマークである百貨店が立ち並び、文化を生み、育んできた銀座。歩けば驚くほど歴史の長い老舗に当たるこの街では、信念を貫く美学と挑戦する心意気が交差する。
4年の休業を経て、昨年、新たな歴史を刻みはじめた『TORAYA GINZA』。“一菓との出合い”を新しいテーマに据え、職人が和菓子を作る様子を間近で眺められる予約制のカウンター席が用意された。繊細な手つきと、季節によって変わる菓子の香りを感じながら、できたてを味わう。「緊張します」と笑いながら美しい所作で菓子を拵える職人。丹精に仕上げられた一皿は、特別な体験になるだろう。
[銀座7丁目]TORAYA GINZA
豊かな静寂の中、作りたての和菓子を味わう
銀座店の開店は1947年。ビルの建て替えを経て、昨年待望の新装オープン。建築家の内藤廣氏が手がけた店舗の内装は、壁にいぶし銀の瓦タイルを配した上質な空間。中央通りを見下ろすテラス席には、見事な植栽を配する。都会の喧騒を離れ、ゆったりと和菓子が楽しめる。
甘味で心も小腹も満たしたら、ほど近い外堀通り沿いにある『銀座 たくみ』へ。日本と世界の民藝や手仕事の品が1000点以上、店内を埋めつくすように並ぶ。「手に取りしっくりなじむものに出合ってほしい。大量生産ではない素材のよさを感じられると思います」とスタッフの松井さん。職人を大切にし、客との縁を繋ぐ。「淡々と繰り返す日々です」と謙遜するが、変わる街の中でそれが故に新鮮な魅力を再発見できる、存在感のある場所だ。
[銀座8丁目]銀座 たくみ
現代生活にしっくりなじむ、美しい民藝品が勢揃い
東京・駒場の『日本民藝館』ができる前、1933年に創業。陶磁器や漆器、竹細工や編みかご、織物など、多種多様な民芸品が店頭を埋めつくす。見ていて飽きない、使って愛でる品ばかり。重要無形文化財「型絵染(かたえぞめ)」保持者、芹沢銈介の図案を配した手ぬぐいも人気。
昼時は、すき焼き、しゃぶしゃぶといえば名があがる『銀座吉澤』に注目。昨年、創業の地である木挽町仲通りに移り、新たな看板に選んだのが“焼き肉”。雌牛一頭買いにこだわる肉のプロが、「肉のおいしさを感じる」ための焼き肉をプロデュースした。追究したのはタレ。出汁のように透きとおった見た目で、柑橘が香る。焼き上げた肉をしっかりとタレにくぐらせると、濃厚な肉の甘みが際立つ一方、味わいは爽やかに。これは焼き肉の新境地!
[東銀座]銀座吉澤
創業100周年を迎えた、老舗精肉店の新たな展開
1924年の創業以来、真摯に和牛と向き合ってきた『銀座吉澤』が、昨夏、創業地に戻り新社屋を構えた。1階は、目利きが厳選した銘柄牛や加工品を販売する精肉店、2階は焼き肉、すき焼き、しゃぶしゃぶなどを味わう肉処、3階は完全予約制の肉割烹。
東銀座駅から帰るなら、その前に『MATSUZAKI SHOTEN』に立ち寄ろう。アイデアマンの8代目によって新装した店内では、名物の瓦煎餅を生かした新感覚スイーツが食べられる。お土産選びを楽しみつつ、お腹に隙を見つけて最後まで満たされて。
[東銀座]MATSUZAKI SHOTEN
挑戦の心を忘れずに。煎餅店から商店へ
1804年に港区芝で創業。その後、銀座に移転し、2021年に東銀座で現店舗をオープン。もち米100%で作るこだわりの柿の種など新商品の開発やポップアップなど、煎餅店としての本筋を曲げることなく、柔軟に新たなことに取り組む“商店”に。
『クロワッサン』1150号より
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