巡り来る季節を寿ぎ愛でる。小さな芸術品、京菓子のこころ
撮影・岡本佳樹 文・大和まこ
【 秋果 】外郎(ういろう)製、白こし餡。秋の果物の代表格、柿。
【 栗きんとん 】きんとん製、粒餡。艶やかな栗が緑に映える。
【 まさり草 】外郎製、白こし餡。まさり草とは菊の古名。
【 秋桜 】こなし製、こし餡。ぼかしも美しい。
【 初紅葉 】こなし製、こし餡。木型でかたどった紅葉。
【 名月うさぎ 】薯蕷(じょうよ)製、こし餡。饅頭を兎の形に仕立てて。
もてなしの心を込めた雅な菓子で、折々の美と京都の伝統とを伝える
京菓子の歴史をひもとけば、平安時代に遡る。奈良時代に大陸より伝来した唐菓子は、平安京で貴族たちの美意識や感性に育まれ、日本独自の変化を重ねてゆく。御所をはじめ宮家や公家へ菓子を納める京の菓子職人は、技を競って優美な意匠を考案し、花鳥風月にちなんだ銘を付け、創作に情熱を傾けたという。やがて茶の湯が確立される頃には、京菓子はますます洗練されたものへと進化していった。
『京菓子司 俵屋吉富(たわらやよしとみ)』は宝暦5(1755)年創業の老舗。「京菓子は長い年月をかけ、茶人のもてなしと職人の技との融合で育まれてきました。なかでも上生菓子は同じ材料を使っても、姿形や銘で人々は季節や情景を思い浮かべることができ、それによって味わいが変化する。五感を総合してひとつの菓子を作り出しているのが京菓子なのです」と9代目当主の石原義清さん。
菓子帖にある伝統的なものから毎年の新作まで、8つの節気ごとに30〜40もの上生菓子が用意されるという。店頭には日々3種ほどが用意され、次々と変わっていくことで季節や風習を伝えてくれる。
「茶事のために作る上生菓子は意匠が抽象的なものもありますが、店頭に並べるものは季節がしっかり伝わるように。京菓子を通じて折々の暦を伝え、風習を残していくことも大切な役割だと感じています。また、日常のおやつではなく、おもてなしの要素を持つのが京菓子。相手の喜ぶ顔を思って準備をしてほしいですね。たとえば兎の菓子は月の皿に置くことで月兎の意匠に。肌寒くなった秋口なら薯蕷饅頭をせいろで蒸して出すなどの工夫を。同じ菓子でも見た目や味わいが変わってくるはずです」
まずは銘を耳にして想像を膨らませ、意匠を愛で、ほのかな香りを聞く。口触りを楽しみ、洗練された味わいを満喫する。五感で満喫する、儚くも美しい芸術品が京菓子なのだ。
俵屋吉富 本店
京都御苑の北にあり、西陣の落ち着いた街並みに溶け込む京都らしい店構え。誂えの相談もこちらで。
京菓子資料館
京菓子の文化を広く伝えるため1978年に開館。“糖芸菓子”の展示も。
『クロワッサン』1150号より
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