『春の星を一緒に』著者 藤岡陽子さんインタビュー ──「死は懸命に生きた“命のゴール”です」
撮影・桑名晴香 文・一寸木芳枝
緩和ケア病棟は、はたして“穏やかに死を待つ場所”だろうか。現役の看護師であり、1年前に実父を亡くした作家・藤岡陽子さんは「そうではない」と否定する。
「長年疎遠だった父が末期の胃がんだという連絡を受け、十数年ぶりに緩和ケア病棟で再会しました。会うまでは迷いに迷ったけれど、私自身が親になり、子どもを育てることの大変さを実感したこともあって、病室で出たのは自然と感謝の言葉でした」
確執のあった父から謝罪の言葉をかけられたことで、藤岡さんの中にあったしこりは消え失せ、過去の記憶は明るいものへと変わった。
〈旅立つ人が最期まで幸せを感じてくれたなら、残される人も未来に希望が持てる〉
本作にも記されたこの一文は、実父との別れ際の交流と看護師として長年看取りの場に立ち会ってきた経験から生まれた。
「死は決して悲しいだけ、寂しいだけのものじゃないということ。生き抜いた先のゴールであって、敗北ではないということ。それを緩和ケア病棟を舞台に描きました」
人々の生き様、死に様を圧倒的リアリティで丁寧に紡ぐ
主人公の奈緒は40歳、シングルマザーの看護師。一人息子の高校生の涼介と父・耕平の3人で実家で暮らす。ある日、突然訪れた大切な人との別れを機に、敬愛する医師・三上の誘いもあって東京の緩和ケア病棟で働くことに。奈緒は、終末期を迎えた患者と向き合う日々の中で、その人にとって“幸せな最期とは何か”を模索する。
「緩和ケア病棟について初めて知る方も多いと思ったので、そこで行われる医療や患者さんたちの過ごし方など、細部まで丁寧に伝えたいと思いました。取材に対し、私が医療従事者だから話してくれたこともあったと思います」
その言葉どおり、緩和ケア病棟では重曹水、キノコの薬、手かざし、水素療法といった代替医療も担当医は〈生きる力になるのであれば、私たちは否定しない〉など、知らなかった話も多い。そして当然ながら、患者には若い世代もいれば、80歳を過ぎた高齢者もいて、どちらにも死は確実にやってくる。それでも、“希望”を感じるのは、緩和ケア病棟が最期までその人らしく生き抜ける場所だからだろう。
〈人は命が尽きる直前まで、意識がある限り、もしかすると意識が無くなった後も、なにかを感じている。最期の時間を噛み締めている〉
奈緒を通して思いを巡らす、生きること、死にゆくこと。と同時に、大切な人に伝えたいことを言葉にする大事さを痛感する。
「周りを見ても、“あの時ちゃんと伝えておけばよかった”と後悔している人がすごく多い。言葉の重みって、やっぱりあると思うんです。特に残された人たちにとっては、一生の支えになることも救いになることもありますから」
奈緒、涼介、三上、それぞれに残された言葉は、涙なしには読めない。読後はきっと、大切な人の声が聞きたくなるに違いない。
『クロワッサン』1150号より
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