暮らしに役立つ、知恵がある。

 

広告

『星になっても』著者 岩内章太郎さんインタビュー ──「父親の死と生を思索したエッセイです」

気鋭の哲学者が35歳でぶちあたった父の死。忘れえぬ喪失を起点に思索を深め、世界を見つめた美しいエッセイ『星になっても』。──本を読んで、会いたくなって。著者の岩内章太郎さんにインタビュー。

撮影・石渡 朋 文・鳥澤 光

岩内章太郎(いわうち・しょうたろう)さん 1987年、北海道生まれ。豊橋技術科学大学准教授。現象学を中心に研究し、「哲学対話」の方法論の構築を進める。著書に『〈私〉を取り戻す哲学』『新しい哲学の教科書』『〈普遍性〉をつくる哲学』がある
岩内章太郎(いわうち・しょうたろう)さん 1987年、北海道生まれ。豊橋技術科学大学准教授。現象学を中心に研究し、「哲学対話」の方法論の構築を進める。著書に『〈私〉を取り戻す哲学』『新しい哲学の教科書』『〈普遍性〉をつくる哲学』がある

身近な人との死別が日常を不意に変形させる。哲学者である岩内章太郎さんは、父を亡くしてなおも続く世界で、エッセイ『星になっても』を書くことで喪失を辿り、悲しみに向き合った。

「父の訃報の直後、たまたま文芸誌『群像』からエッセイ執筆の依頼があって書いたのが、本の最後に収めた「訃報を待つ」です。原稿用紙6枚ほどの短さですが、通常とは全く違う精神状態のなかで自分をつぎ込むように書き、四十九日の頃に原稿を送りました。しばらくして連載のお話があり、父が愛読していた雑誌ということもあってお受けして、改めて書き始めたのが『星になっても』です」

人はなぜ生きるのか、なぜ死ぬのか。小学生の頃から思索を続け、

「これが解明できない限りは他の問題の答えがわかってもつまらないぞ」と考えていたという岩内さん。死と哲学という、重く、ともすると暗くなりがちなテーマを、具体的なエピソードをとおして、個人の、等身大の物語として綴る。葬式の風習、弟の手土産、母の言葉、幼い息子たちや妻とのやりとり、猫との時間、夏の日差し、いくつもの追憶、遺された手記と蔵書、ぐびぐび呑まれる酒、ビーフ重の湯気と香り。

「父がいたら絶対におもしろがってくれるだろう、というその一点だけで書き続けることができました。応援してくれる一方で、書いたものが読み物として成功しているかどうかについては厳しく批評してくれたと思います。弟が柩の父の額にアップルパイをのせたり、遺骨を粉砕したりするシーンは、よく書けたねぇと喜んでくれただろうと確信しています。いや、お前いい加減にしろよ!と苦笑しているかもしれませんが」

自分の魂が、父と父の死をどうやって表現できるのか

帰省して家の扉を開けると父がいつも座っていたソファがある。

「いつもの場所で父が待っている、と心が予期しているようで、今でも実家に父がいるという感触が残っています。死んでしまったんだからいないんだと頭ではわかっているんですが、気持ちがそこに追いつかないわけですね。哲学の論文や本と違って、エッセイって執筆にあたって参照すべきものがないんですよ。勉強してもだめ。自分の魂が対象をどう表現できるかの勝負だから、これまでで一番難しい執筆でした」

別れから時をおかず毎月原稿を書くことで、喪失の経験や意味合いは変化していったのだろうか。

「書くことで私の中で何か変わったのかどうかは自分でもまだわからないんです。でも、エッセイを連載や本で読んでもらうことによって、自分の体験や経験が多くの人に届くんだと実感しました。身近な人を失うということ自体はそれぞれ個別的で違うのに、構造としては同じ体験を共有できる。それが私にとっては救いになりましたし、書いたものを面白い、共感する部分があると言ってもらえることが励みになりました」

『星になっても』 気鋭の哲学者が35歳でぶちあたった父の死。忘れえぬ喪失を起点に思索を深め、世界を見つめた美しいエッセイ。 講談社 1,980円
『星になっても』 気鋭の哲学者が35歳でぶちあたった父の死。忘れえぬ喪失を起点に思索を深め、世界を見つめた美しいエッセイ。 講談社 1,980円

『クロワッサン』1149号より

広告

  1. HOME
  2. くらし
  3. 『星になっても』著者 岩内章太郎さんインタビュー ──「父親の死と生を思索したエッセイです」

人気ランキング

  • 最 新
  • 週 間
  • 月 間

注目の記事

編集部のイチオシ!

オススメの連載