『地球の文学』山口裕之 編──世界各地の文学を読みほどくエッセイ集
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
各国の文学や地域研究の専門家たちによるエッセイ集。南北アメリカ、東・中央・西・南の各ヨーロッパ、アフリカ、東・東南・南・西の各アジア、さらに地域流動としてサバルタン文学も取り上げられている。
エッセイのテーマは文学だが、切り口は多種多様。訳書も多々読ませてもらっているチェコ文学の阿部賢一氏のエッセイのタイトルは、「チャペック『ロボット』における複数言語使用」。ロボット(robot)という言葉の生みの親がチャペックであることは有名だが、これはチェコ語の「robota」を参照しており、その意味は「賦役」「苦役、重労働」なのだとか。
また、作中、ロボットが女性に対して外国語で呼びかける時に男性形を使用しており、それはロボットが習得したのは男性と会話するための外国語でしかなかったのだろう、という。邦訳ではこうしたことは分からないので、ハッとする指摘の連続だ。私はキルメン・ウリベのバスク文学に魅了された一人なのだが、彼の作品の訳者でもある金子奈美氏のエッセイでは、この少数言語の文学的な試みの歴史が分かり勉強になった。
読書欲が刺激されまくる一冊。積読本がまた増えてしまう……。
『クロワッサン』1144号より
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