『きみはメタルギアソリッドV：ファントムペインをプレイする』ジャミル・ジャン・コチャイ 著 矢倉喬士 訳──現実と幻想が融合する新時代的な作品群
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
アフガニスタン系アメリカ人作家による短篇集。マジックリアリズム的な手法を用いた、ユニークな作品が並ぶ。
表題作では、アメリカに住むアフガニスタン系移民の少年が、お金を貯めて念願だったゲームを購入。夢中でプレイするうち、少年は舞台がかつて両親が暮らしていた村であると気づく。1980年代にアフガニスタンがソ連軍に侵攻された際、少年の父親は暴行を受け、叔父は殺された。当時の彼らを救うべく、少年は行動に出るのだが……。ゲームと現実が融合していく短篇だ。
「バフタワラとミリアム」は、カブールに住む少女の話。姉がアメリカ人青年との結婚式直前に他の青年と駆け落ち。次女のバフタワラは、自分が姉の代わりに結婚すると申し出る。彼女にとってこれはアメリカに行けるチャンスなのだ。そんな彼女には秘密の友達がいる。家の壁に空いた穴を通して、隣家に住む引きこもりの少女、ミリアムと交流を重ねているのだ。終盤のシーンでは喧噪のなかでさまざまな人生、思惑、過去と未来が折り重なっていく感覚を憶え、胸を突かれた。
他の短篇も魅惑的。多彩な語り口で才能を炸裂させている。
『クロワッサン』1144号より
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