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『その本はまだルリユールされていない』坂本 葵 著──本の装幀を通して自分を見つめ直す人々

文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。

文・瀧井朝世

『その本はまだルリユールされていない』 坂本 葵 著 平凡社 1,870円
『その本はまだルリユールされていない』 坂本 葵 著 平凡社 1,870円

タイトルにある「ルリユール」とは、製本あるいは製本する人のことを指す。

小学校の図書室司書の職を得たまふみは学校近くのアパート、ルリユール荘に引っ越す。そこには綺堂瀧子親方とその孫で引きこもりの天才製本家、由良子が働く工房が併設されていた。

工房が開く製本教室に参加したまふみは、手仕事による製本の奥深さ、出来上がった書籍の美しさに魅せられ、やがて由良子とも少しずつ距離を縮めていく。

近所の人々、製本の依頼者たち、学校の児童らさまざまな人も登場。挫折を経験しているまふみをはじめ、それぞれ事情や悩みを抱えている。彼らが自分にとって特別なたった一冊の本を作ることを通して、人生を見つめ直し、時に区切りをつけていく姿に心癒やされる。

製本や本の修理の過程も丁寧に描かれ、その創意工夫にうっとりとする。シークレット・ベルギー装、テート・ベッシュ製本、コンチェルティーナ装、ゲート製本といった手法も面白かった。

もしお気に入りの本を製本し直すなら、どの本をどんなふうに装幀しようかと、想像せずにはいられない。大切な本があまりにもありすぎて決められない……!

  • 瀧井朝世 さん (たきい・あさよ)

    ライター

    著書に『ほんのよもやま話〜作家対談集〜』『偏愛読書トライアングル』など。

『クロワッサン』1144号より

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