『その本はまだルリユールされていない』坂本 葵 著──本の装幀を通して自分を見つめ直す人々
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
タイトルにある「ルリユール」とは、製本あるいは製本する人のことを指す。
小学校の図書室司書の職を得たまふみは学校近くのアパート、ルリユール荘に引っ越す。そこには綺堂瀧子親方とその孫で引きこもりの天才製本家、由良子が働く工房が併設されていた。
工房が開く製本教室に参加したまふみは、手仕事による製本の奥深さ、出来上がった書籍の美しさに魅せられ、やがて由良子とも少しずつ距離を縮めていく。
近所の人々、製本の依頼者たち、学校の児童らさまざまな人も登場。挫折を経験しているまふみをはじめ、それぞれ事情や悩みを抱えている。彼らが自分にとって特別なたった一冊の本を作ることを通して、人生を見つめ直し、時に区切りをつけていく姿に心癒やされる。
製本や本の修理の過程も丁寧に描かれ、その創意工夫にうっとりとする。シークレット・ベルギー装、テート・ベッシュ製本、コンチェルティーナ装、ゲート製本といった手法も面白かった。
もしお気に入りの本を製本し直すなら、どの本をどんなふうに装幀しようかと、想像せずにはいられない。大切な本があまりにもありすぎて決められない……!
『クロワッサン』1144号より
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