『台湾文学の中心にあるもの』赤松美和子 著──台湾の近現代が見えてくる一冊
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
台湾の近現代が見えてくる一冊
台湾の文学に興味がある人はもちろん、近代史、政治社会、文化、言語に少しでも関心のある人なら、きっと「読んでよかった」と思える一冊。日本で読める約五十作品を紹介しつつ、その社会的・歴史的、言語的な背景を非常に分かりやすく書いている。
日本統治、二二八事件、戒厳令、白色テロ、民主化。そうした現代史の流れのなかで、どのような作品が生まれ、社会にどのような影響を与えてきたのか。文学はもちろん映画についても多く言及されている。
以前台北の書店に行った時に、日本のエンタメ小説の訳書が多く並んでいたこと、一時期台湾映画が少ないと感じていたこと。台湾文学の言語(台湾語や中国語や客家語がどう使われているのか。邦訳書ではよく分からない)、翻訳する際にその違いをどう処理しているのか……など、ぼんやりと頭の片隅にあった印象や疑問について、クリアな回答が得られた。また、改めて、日本の植民地化支配によって作家個人、そして文学界にどれだけの影響(損害)があったのかを考えさせられた。
巻末には台湾の年表や基礎知識、文学マップも掲載されている。重宝すること間違いなし。
『クロワッサン』1140号より
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