十三回忌を済ませても、父がいないという実感がまだないんですーー中村勘九郎さんインタビュー
撮影・天日恵美子 スタイリング・寺田邦子 ヘア&メイク・中村優希子 文・木俣 冬
「昨年は一年間、父(十八世勘三郎)の十三回忌追善興行を無事につとめ上げ、安堵を感じてます。でもまだ父がいない実感はなくて……。そして追善興行が終わっても中村屋ゆかりの演目が続くので、まだ終わらない感じがしていますね」。
歌舞伎の名門・中村屋スピリッツを父から受け継いだ中村勘九郎さん。昨年、父も出演が叶わなかったアングラテント芝居の、新宿梁山泊『おちょこの傘もつメリー・ポピンズ』に出演した。「出たかったと父が悔しがったであろうこの作品が、一番の追善になったのではないか」としみじみしながら、「花園神社での宙乗りはこれまでのどの宙乗りよりも気持ちよかった」と振り返った。
2月は、初代勘三郎が江戸で歌舞伎興行を始めたことを祝う「猿若祭」。そこで、十八世勘三郎(当時は勘九郎)さんが1988年に銀座セゾン劇場で主演した『きらら浮世伝』に挑むことに。
「江戸中期、社会改革が行われている時代に様々な芸術作品が生まれ、江戸のメディア王といわれる蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)がそれをプロデュースしていきます。芸術家たちの発信するパワーがキラキラと輝いている青春群像劇で、これを僕はいつか歌舞伎でやってみたいと思っていました。ちょうど大河ドラマで重三郎が取り上げられることになったのでこの機会を逃す手はないと!」
張り切る勘九郎さん。歌舞伎はジェンダーレスでありエイジレスであるとはいえ、「技術的に若く見せるのではなく、まだ何者でもない若者たちの放つエネルギーのリアリティは40代のいまがギリギリかなと思っています」。
勘九郎さんは「超歌舞伎」で初音ミクの振りも完璧にこなす動きのキレの良さに定評があるから存分に弾けてくれるだろう。弟の中村七之助さんは吉原の遊女役。男性が女性を演じて実に美しいことが歌舞伎の魅力でもある。実弟の女方のリアリティはどう思っている?
「舞台では心の底から美しいと思います」
『人情噺文七元結』では左官長兵衛として七之助さんと夫婦役。長男の勘太郎さんが長兵衛の娘お久を演じる。かつて勘九郎さんも演じた役で、「当時、僕はすごく太っていて、長兵衛さんの家は貧乏なのにどうしたものかと思いながらも、心をこめて演じることを教わった記憶があります」。
当時の勘九郎さんと同じく、勘太郎さんは伯母の波乃久里子さんに稽古をつけてもらうそうだ。昔ながらの技と心を受け継ぎ積み重ねて、スピリッツは永遠になるのだろう。
「今年も、中村屋にはハズレがない、安心だと思っていただけるようにつとめていきたいですね」
衣装協力・ダイドーフォワード/ニューヨーカー(TEL.0120・17・0599)
『クロワッサン』1134号より
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