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大変な時こそ食べ慣れたものを。賢いローリングストックのコツ。

非常時の食、何を備えていますか? ストレスを感じて食欲がなくなりがちなときこそ、実は常備食が活躍します。

撮影・小川朋央 イラストレーション・ながしまひろみ 文・長谷川未緒

非常食というと、長期保存できる乾パンやおかゆなどを備蓄するイメージがあるが、炭水化物と水だけでは味気なく、栄養不足になる恐れも。防災備蓄収納を伝える活動をする三原麻弓さんは、災害時こそ、できるだけふだんの献立に近い、食べ慣れたものを食べられるように備えたほうがいいという。

「災害時は極限の状況下で食欲も失せてしまいがちですが、いつもに近い食事を摂ることで食欲が湧いてきますし、ストレスも軽減できます。子どもや高齢者、病気やアレルギーのある家族がいる場合は、なおさらです」

柳沢小実さんの朝食は調理不要だから災害時にも。
柳沢小実さんの朝食は調理不要だから災害時にも。
水谷妙子さんが普段用兼災害用に備える常備食。
水谷妙子さんが普段用兼災害用に備える常備食。

災害時には1週間分の備蓄が必要といわれている。停電しても冷蔵庫が倒壊していなければ、生鮮食品の中にも使えるものがあるだろう。賞味期限が長めで常温保存できる食品も、ふだんから食べ慣れたものをローリングストックしておきたい。

「阪神淡路大震災で被災した経験から、平常時に災害のことを考え、災害のときこそ日常生活を続けることが大切だと身に染みました。一度も食べたことがないものを備蓄しておくのではなく、口に合うものを備える日常が、いざというとき大きな助けになります」

非常時も平常時に近い食生活を送るには?

ポイント1. いつも食べているものに近い食料を揃えておこう。

自分や家族が食べ慣れたものを非常時にも食べられるようにするには、缶詰を何個、などと一般的なチェックリストに従って揃えるのではなく、いつもの献立から考えて、と三原さん。

「1週間ほど朝昼晩に何を食べているか書き出してみると、パターンが見えてきます。たとえば朝はパンとサラダにコーヒー、お昼はパスタや焼きそばなどの麺類、夜は焼き魚や煮物などのメインに副菜、味噌汁などだとしたら、それに近い食事が叶うよう、ストックリストを考えます」

具体的には、朝食用のパンは多めに冷凍しておいたり、長期保存用食品を普段から試してみたり。昼食、夕食には、献立に合わせて日持ちする野菜、乾麺、レトルトのパスタソース、缶詰、即席味噌汁、乾物などを常備。ガスボンベとコンロも用意しよう。まず冷蔵庫のもの、次にストック品、そして電気やガスが止まることを想定してカセットコンロと多めのボンベがあれば、温めたり調理してより普段の食生活に近づけることができる。

書き出してみることで、汁物は欠かせないなど好んで食べているものがよくわかり、備える目安になる。
書き出してみることで、汁物は欠かせないなど好んで食べているものがよくわかり、備える目安になる。

ポイント2. 調理不要のレトルトや 乾物、お皿代わりになる食材も便利。

災害時は、常温で長期保存できる食料が活躍する。缶詰もいいが、缶は食べた後にゴミとしてかさばるため、パウチタイプがおすすめ。

「五目寿司の素は、高野豆腐や椎茸、野菜などが入っていて、ごはんに混ぜるだけ。料理をする気力が出ないときに便利です。手軽に彩りを添えられる錦糸卵もいいですよ。市販のタルト台も缶詰フルーツと合わせれば災害時にもデザートが食べられます。我が家では常備していて、急な来客時にヨーグルトとフルーツをのせてデザートとして出しています」

食材をのせて手巻きで食べられる海苔や生春巻きの皮などは、お皿代わりに。イベント感もあるため、沈みがちな気持ちが少し和らぐかも。

災害時は気分が落ち込みやすい。必需品に加え、甘いものや気持ちがほぐれる好きなものがあるといい。
災害時は気分が落ち込みやすい。必需品に加え、甘いものや気持ちがほぐれる好きなものがあるといい。

ポイント3. 水だけでなく、ジュースやワインがあってもいい。

災害用の水の備えは飲料用と調理用を合わせ、政府からも一日に一人3リットルが目安といわれている。

「ふだんの食事で水だけを飲んでいる人は少ないのでは? お茶やコーヒー、紅茶、ジュースなど、いつもの飲み物を災害用にストックしておきましょう。晩酌を楽しむ習慣がある人は、アルコールもいいですね。飲み過ぎはよくありませんが、少し楽しむ分には、不安を和らげる効果もあると思います」

コーヒーやアルコールといった嗜好品に加え、好みの野菜ジュースもあると不足しがちなビタミン補給に。
コーヒーやアルコールといった嗜好品に加え、好みの野菜ジュースもあると不足しがちなビタミン補給に。

ポイント4. キッチンだけでなく、違う場所にもストックしておこう。

非常時にも活躍する常備食は台所に置きがちだが、地震が起きた場合、食器棚や冷蔵庫が倒れて、台所そのものが使えなくなることもある。

「キッチンとは別の場所に、食品を備蓄しておきましょう。目安として室温15〜30度、直射日光の当たらない風通しのいい場所に。湿度は60%を超えるとカビが発生しやすくなるので注意。私は押し入れを防災倉庫のようにし、紙皿などと合わせてローリングストック品を置いています」

納戸や押し入れなどを片づけて、常備食と合わせて鍋やお皿、カセットコンロなども一式備えておこう。
納戸や押し入れなどを片づけて、常備食と合わせて鍋やお皿、カセットコンロなども一式備えておこう。

ポイント5. 料理したくないとき、 忙しいときに備蓄品を食べてみよう。

ローリングストックで災害に備えているつもりでも、気がついたら賞味期限が切れていたということは起きがち。そうした事態を避けるためには、たとえば震災のあった3月や防災の日がある9月などのタイミングで確認するといい。誕生月やボーナス月など、覚えておきやすい日を自分で決めるのも一案だ。

「私は、牡蠣のオイル漬けなど気になる缶詰を見つけたら買っておき、疲れた日に酒のつまみやおかずにし、また買い足します。みなさんも、ごはん作りが面倒に感じる日はありませんか。そんなときに缶詰やレトルトをメインに食べて、常時回転させるのもいいですよ。ちょこちょこ買い替えれば、いっぺんに入れ替えるよりも、お財布にやさしく感じます」

家族みんなで備蓄品を食べる日を定期的に作ると、賞味期限対策になり、非常時にも食べ慣れたものを食べられる。
家族みんなで備蓄品を食べる日を定期的に作ると、賞味期限対策になり、非常時にも食べ慣れたものを食べられる。
  • 三原麻弓

    三原麻弓 さん (みはら・まゆみ)

    防災備蓄収納マスタープランナー

    「防災備蓄収納暮らし」代表。自身の被災体験や防災士の知識から、プチプラ備蓄や日常を邪魔しない備蓄収納などを伝えるセミナーが評判。

『クロワッサン』1124号より

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