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「田名網敬一 記憶の冒険」国立新美術館【青野尚子のアート散歩】

文・青野尚子

記憶が書き換えられ、再生産されるアート。

1936年生まれの田名網敬一。60年以上にわたる彼の画業を振り返る、美術館では初めての大規模な回顧展が開かれている。

《森の掟》 2024年 以下すべて、田名網敬一 (C)Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA
《森の掟》 2024年 以下すべて、田名網敬一 (C)Keiichi Tanaami / Courtesy of NANZUKA

田名網の創造の原点にあるのは幼少期の戦争体験と、戦後の日本に大量に流入したアメリカン・コミックやポップ・アートなどのアメリカ文化だ。

武蔵野美術大学卒業後、デザイナーとして活躍、60年代には自らを「イメージディレクター」と名乗るようになる。イラストレーションや雑誌のデザインだけでなく実験映像の制作など精力的に活動していた。

大きな転機の一つは81年に患った結核による入院生活だ。そこで彼はダリの絵画や病院の庭の木が登場する幻覚を見る。その前に中国を訪れていたこともあり、絵には東洋的なモチーフが現れるようになった。

2000年頃からは、それまで描いてきたモチーフを思いもよらない形で組み合わせることで、より複雑でダイナミックな図像を展開していく。立体作品や、赤塚不二夫ら他のクリエイターとのコラボレーションも多い。

《ドカーン》 2022年
《ドカーン》 2022年

田名網は戦争や大病といった体験をきっかけに「人間は自らの記憶を無意識のうちに作り変えながら生きている」と考えるようになる。その説に基づいて彼は、自身の脳内で増幅される「記憶」を主題に創作活動を続けている。イメージの洪水の中で記憶が次々に書き換えられていくような展覧会だ。

《記憶の修築》 展示風景:「田名網敬一 記憶の修築」 NANZUKA、東京、2020年
《記憶の修築》 展示風景:「田名網敬一 記憶の修築」 NANZUKA、東京、2020年

会場にはポスターなどのほか、テレビ番組のために制作されたアニメーション、’70年代から続けてきた夢日記やドローイング、ファッションブランドやキャラクターとのコラボレーション、未発表の新作も並ぶ。

田名網敬一 記憶の冒険
開催中~11月11日(月)
●国立新美術館
(東京都港区六本木7・22・2) 
TEL.050・5541・8600(ハローダイヤル)
10時~18時 火曜休 
入館料 一般 2,000円ほか

  • 青野尚子 さん (あおの・なおこ)

    アート・建築関係のライター

    著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。

『クロワッサン』1124号より

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