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「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」東京都現代美術館【青野尚子のアート散歩】

文・青野尚子

一人のコレクターが共に歩んだ日本の現代美術。

精神科医の高橋龍太郎は1997年から本格的にコレクションを始め、国内外26の美術館でコレクション展を開催してきた。現在の収集点数は3,500点以上、今もその数は増え続けている。

今回の展覧会は主に90年代以降の日本の現代美術の軌跡をたどる構成になっている。

「胎内記憶」と題された章では若き日の高橋が影響を受けた作家たちを取り上げる。
次の「戦後の終わりと始まり」に登場する90年代半ばからの作品は戦後の経済成長が止まった時期と重なる。グローバル化する社会の中、変容していく日本の現代美術は60年代末の学生運動にも参加した高橋を刺激した。

SIDE CORE / EVERYDAY HOLI DAY SQUAD《rode work tokyo_ spiral junction》2022年 Photo: Natsuko Fukushima, Tokyo Art Beat
SIDE CORE / EVERYDAY HOLI DAY SQUAD《rode work tokyo_ spiral junction》2022年 Photo: Natsuko Fukushima, Tokyo Art Beat

次の「新しい人類たち」では人間を描いた作品にフォーカスをあてる。精神科医として日々、人々が抱える問題と対峙する高橋にとって人間は大きな興味の対象だ。

「崩壊と再生」には東日本大震災と関連する作品が並ぶ。震災は東北出身の高橋に大きな感覚の変化をもたらした。生命の再生をテーマにする作品群はこの展覧会のハイライトのひとつだ。

「『私』の再定義」として自らの存在を問い直すような作品が並ぶ章は、東日本大震災以降、強い主張にリアルさを感じられなくなったという高橋の心境を表す。

最後の章は「路上に還る」。路上で生まれたものが何かを変えていく、そんなことを思わせる。

高橋個人の歩みと90年代以降の日本、そして美術の様相を知ることができる展覧会だ。

奈良美智《Untitled》1999年 (C)NARA Yoshitomo, courtesy of Yoshitomo Nara Foundation
奈良美智《Untitled》1999年 (C)NARA Yoshitomo, courtesy of Yoshitomo Nara Foundation

出品作家に草間彌生、森山大道、風間サチコ、大岩オスカール、毛利悠子、束芋、千葉正也など。同日程で企画展「開発好明 ART IS LIVE―ひとり民主主義へようこそ」を開催。

「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」
開催中~11月10日(日)
●東京都現代美術館
(東京都江東区三好4・1・1) 
050・5541・8600(ハローダイヤル) 
10時~18時 月曜休(祝日の場合は開館、翌火曜休) 
入館料大人2,100円ほか

  • 青野尚子 さん (あおの・なおこ)

    アート・建築関係のライター

    著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。

『クロワッサン』1123号より

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