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「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」東京国立博物館【青野尚子のアート散歩】

文・青野尚子

縄文と現代、時空を超えて静かな対話が広がる場。

近づいただけで震えそうな半透明の枕、わずかな風に揺れる糸。内藤礼の作品はそのまわりに小さなオーラを放ってはかなげに佇んでいる。

これまでも東京都庭園美術館などで個展を開催してきた彼女だが、今回の舞台は東京国立博物館。150年の歴史を持つ、日本最古のミュージアムだ。そこに収蔵されているおよそ12万件のコレクションや建築空間と、内藤との対話から生まれた個展が始まる。

内藤礼《死者のための枕》2023年  撮影:髙橋健治
内藤礼《死者のための枕》2023年  撮影:髙橋健治

同館のコレクションから彼女は縄文時代の土製品を選んだ。注文主など作り手以外の意志が大きく関与することになる前の時代の作品だ。

作品が置かれる空間のあり方にも慎重な内藤は平成館のほかに、本館の特別5室と1階ラウンジで展示を行う。本館特別5室では長年閉ざされていた大きな鎧戸が開放される。「地上の生の光景」を希求する内藤の思いによるものだ。自然光とともに現れる作品は天候や時刻によって静かにその姿を変える。

「内藤礼:breath」2023年 ミュンヘン州立版画素描館、《color beginning》2023年 撮影:畠山直哉
「内藤礼:breath」2023年 ミュンヘン州立版画素描館、《color beginning》2023年 撮影:畠山直哉

9月から銀座メゾンエルメス フォーラムで開催される同じタイトルの展覧会は、連作の絵画や立体作品によって東京国立博物館での個展とつながるものになる。エルメスでの会場もガラスブロックから外の光が入る空間だ。

移り変わる光によって生まれては遠ざかる記憶は「生まれておいで 生きておいで」という呼びかけとともに流れる時間の中に溶けていく。縄文からの遥かな時を超えてきた土と内藤の作品が交わす小さな声が聞こえてくる。

東京国立博物館 本館1階ラウンジ
東京国立博物館 本館1階ラウンジ

 『内藤礼 生まれておいで 生きておいで』
6月25日(火)〜9月23日(月・休)
●東京国立博物館
(東京都台東区上野公園13・9) 
TEL.050・5541・8600(ハローダイヤル) 9時30分〜17時 月曜休(ただし7月15日、8月12日、9月16・23日は開館、7月16日、8月13日、9月17日休) 
入館料一般1,500円ほか。
銀座メゾンエルメス フォーラムでの個展は9月7日(土)〜2025年1月13日(月・祝)開催。

  • 青野尚子 さん (あおの・なおこ)

    アート・建築関係のライター

    著書に『超絶技巧の西洋美術史』(池上英洋さんとの共著、新星出版社)など。

『クロワッサン』1120号より

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