「カッコつけた着こなしではなく、自然体で着物を楽しみたいです。」俳優・渡辺真起子さんの着物の時間。
撮影・岩本慶三 ヘア&メイク・長網志津子 着付け・石山美津江 文・大澤はつ江 撮影協力・桜製作所 銀座店
光を受けると金糸、銀糸が輝き、とても華やかな印象になります。
映画、ドラマ、舞台と多岐にわたり活躍し、その存在感を示す渡辺真起子さん。クールで一味違う演技が魅力だ。
「クセのある役どころが多いのは事実ですが、話好きですし、皆さんがイメージするほどクールでもありませんよ」
でも、思ってしまう。立っているだけでカッコいい! クールビューティーと。
1988年に映画デビューしてから現在まで、それこそいろいろな役を演じてきた渡辺さんだが、意外にも時代劇には縁がなかった。
「唯一時代劇と呼べるのは、2021年に公開された『るろうに剣心 最終章』で剣心が宿泊する京都の宿屋の女将役。地味な着物で“いけず”な感じで演じました。そういえば今まで花嫁役のオファーもなかった(笑)。だから振袖を着たのは七五三だけかもしれません。成人式はアメリカにいましたし……。でも、着物は大好きなんですよ」
という渡辺さんが今回選んだのは、金糸、銀糸を織り込んだブルーの色無地。
「20年ほど前、知人を介していただいた久保田一竹(くぼたいっちく)先生のオリジナルで、一竹先生の名にちなみ、地紋に笹が織り出されています。一見すると無地に見えますが、光が当たるとキラキラと笹が輝くので華やかな席にぴったりなんです。そのとき一緒に『一竹辻が花』の帛紗(ふくさ)(下写真)もいただきました」
久保田一竹の着物といえば、15世紀後半から16世紀前半に失われた染色技法「辻が花」を復刻するために研究を重ね、現代に蘇らせた「一竹辻が花」で知られるが、今回の着物はそれとは異なる趣がある。
「合わせた亀甲文様の袋帯は、ボイストレーニングをお願いしている先生から譲られたもので、今日初めて締めます。帯が白地なので帯揚げを紫にして胸元を引き締めました」
実はこの着物には忘れられない思い出が。
「2014年にモロッコで開催された第14回『マラケシュ国際映画祭』は日本映画を大特集。その代表団の一員として出席した際に着たのですが、着付けの方などいませんから自力で着付けるしかなくて。
おはしょりのところまでは問題ありませんでした。難関は帯。そのときは今回のものではなく、黒地に菊などを刺繡した帯でしたが、どうも決まらない。だんだんと衿元も崩れてきて。ならば、と前で結んでぐるっと回して事なきを得ました。
そのかいあって、出席した各国の方たちがとても喜んでくださり、着てよかった、と思いましたね。30代半ばから40代に習っていたお茶が着付けの役にたちました」
「所作をきちんとしたい」「畳の上をきれいに歩きたい」などいろいろな思いから始めたお茶だった。
「着物をきちんと着てみたいと思うきっかけにもなりました。カッコつけて着物を着たくないんです。自然体で着こなせたら最高です。非日常着ではなく、おしゃれ着のひとつとして楽しめるようになりたいです」
『クロワッサン』1116号より
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