考察『光る君へ』13話 兼家(段田安則)の老いのリアルに震える、定子(高畑充希)の変顔が可愛い!未来の后ふたりが登場回
文・ぬえ イラスト・南天 編集・アライユキコ
兼家の老い、詮子の威厳
永祚2年(990年)一条天皇(柊木陽太)が元服。道長(柄本佑)が倫子(黒木華)と結ばれた……つまり、まひろ(吉高由里子)が道長と別れた夜から4年経っている。
この元服式で驚くのは兼家(段田安則)の姿だ。白髪だけでなく、細かな震えというか上半身が僅かに安定しない様子で、明らかに前回、第12話(記事はこちら)よりも老いている。この老いの見せ方、演技が非常に細かい。
そして、娘・詮子(吉田羊)の威厳にも瞠目した。円融帝の女御だった頃、いや、息子を守るために力が欲しいのですと宣言した時と比べても顔の印象が全く違う。吉田羊、素晴らしい詮子像ではないか。
定子の変顔が可愛い
定子、成長して高畑充希の姿で登場! 長男・伊周(これちか/三浦翔平)との微笑ましい兄妹喧嘩、それを両親に報告にくる次男・隆家(新城政宗)。道隆(井浦新)家はみんな仲良しだなあ。
貴子(板谷由夏)の息子・伊周溺愛ぶりが強く印象づけられた。定子の「母上は兄上が大好きで、手放したくないのね」に「そうですよ」。
お、おう……可愛い長男はなんでも得意である、という言葉の中にさりげなく「弓」が入っているのは、伊周と隆家が中心人物となる、のちの大事件をそっと匂わせているのか。
仲良し家族、仲良し母子……眩しいほどだ。
そして定子入内、従姉弟同士の婚姻である。幼い頃は東三条邸で共に遊んだ仲だが、久しぶりに顔を合わせたのと夫婦としての儀式とあって、緊張する一条帝に、おどけて変顔をする定子が可愛い。変顔を堂々とできる女性って、現代でもだいたい美貌の人ですよね!
帝と交わす会話からも、定子の明るく、はつらつとして賢い人柄が窺える。
これは間違いなく、一条帝ご寵愛の、そして清少納言──ききょう(ファーストサマーウイカ)が忠誠を捧げる女性・藤原定子だ。
そして、道兼(玉置玲央)の家庭。第1話で(記事はこちら)、早く妻を持ち入内させる姫をもうけたいと熱く語っていた彼だが、かねてからの希望通り、姫──尊子(愛由)がいる。しかし幼い頃から厳しく「入内せよ」とプレッシャーを与え続けたせいか、娘は父に懐いていないようだ。
道兼の妻は繁子(山田キヌヲ)。兼家の妹であり、叔母と甥の夫婦である。この間に生まれた娘を、更に道兼から見れば甥に当たる一条帝に入内させる心づもりなのだ。
今更だが、大昔の高貴な人々って血縁者同士で結婚を繰り返しているなあと改めて思う。
乙丸は姫様を守る
あれから4年経ったまひろ、外出するにも貴族の女性らしく市女笠を使うようになっており、一視聴者としておばちゃんはちょっと安心してます。さわ(野村麻純)との友情は続いているので、そこも安心。しかし相変わらず暮らしは厳しい。
そして、更に厳しい暮らしをしている市井の人々…字が読めないばかりに人買いに子どもを奪われてしまう女性。字さえ読めれば、子を守れた。知識で防げる悲劇はある。
まひろの「民を一人でも二人でも救います」という決意……その一人が更に一人、いや五人、十人を救うかもしれない。そしてその先もまた。教育とは、そういうものだろう。
辻でまひろが乙丸と共に始めた芝居、タイトル「初めて自分の名前の字を知った男・をとまる」。二人の隣で、直秀と散楽一座が苦笑いしている姿が見えた気がする。
幼い子(たね/竹澤咲子)に字を教えるまひろを、笑顔で見守る乙丸。人買いの暴力から姫を守ろうとして怪我をしたり、毎週のように乙丸はどんな強い相手にも立ち向かう。
振り返れば、第1話でちやは(国仲涼子)の突然の死に居合わせたのは彼だった。あの時、奥方様を守っていればという思いが、彼にはあるのではないか。そして、姫様は必ず守ると心に決めているように見える。
実資おめでとう!
髭をたて、威厳も美しさも増した道隆の言う
「昨年、尾張国の民の上訴により、国司を変更したばかり」
これは、永延2年(988年)の尾張国解文(おわりのくにのげぶみ)と呼ばれる訴状によるものを指す。実際に、尾張国の国司の私腹を肥やす行為と、職務怠慢ほか失政を農民が訴えたものだ。
ここで明らかになる道隆の政治的スタンス。失政、圧制に苦しむ訴えも
「強く申せば通るとなれば、民はいちいち文句を言うことになりましょう」
こういう政治家は、現代でもいるのではないだろうか。道隆は美しいが酷い。
それに対して審議すべきであると、「民なくば、我々の暮らしもありません!」という道長の進言。まひろの、あなたはより良き世の中を求めて政を改めてくださいという願い通り、彼は奮闘しているのだ。
そんな道長に注目する実資(秋山竜次)、念願の公卿昇進おめでとう!! 彼も髭をたてて、平安貴族完全体へと進化している。秋山竜次は平安時代の装束がとてもよく似合う。
陣定の場で、己の父・兼家の異変を目の当たりにした3人の息子。これから自分達が得る地位のことが真っ先に頭に浮かぶ二人の兄と、父の異常な様子に心を痛める弟・道長。リア王のようだ…とは思うが、ここにいない道綱(上地雄輔)も、きっと父を純粋に心配するに違いない。
老いた父も愛おしゅうございます
彰子(森田音初)が誕生して、健やかに大きくなっている。つまり、この13話は未来の后ふたりが登場した回だ。
父・兼家の異変を伝える道長に、倫子は兼家よりも年上である自分の父・雅信(益岡徹)を思い、それは老いだと指摘した。あきらかに変だと感じるまで親の衰えに気づかないあたり、リアルである。現代でもよく聞く話だ。
「老いた父も愛おしゅうございます。お優しくしてさしあげてください」
倫子のこの台詞は、実母・穆子(むつこ/石野真子)が身近にいて、人生、生活の様々を学び取っている女としての強靭さを感じる。
そして、道長と倫子が良好な夫婦関係を営んでいることに、妙な安心感と切なさを覚える場面であった。
宣孝の派手な装束と清少納言
あーっ、宣孝(佐々木蔵之介)が派手派手、すっとんきょうな衣服を着ている!!
これは清少納言『枕草子』に登場するエピソードだ。
「御嶽精進で、右衛門佐宣孝という人は『質素なみなりで参詣せよとは権現様は仰ってはいまい』と、濃い紫の袴に白の狩衣、山吹色のとても派手な衣で」同じく華やかな衣を着せた息子と共にお参りした。
「沢山の参拝客の中で目立たないと権現様に気づいていただけぬとキメた装束……派手だと皆を驚かせたが、実際そのお参りの後で昇進したとのことだ」
とある。宣孝の、柔軟でユニークな人柄が伝わる話だ。
この文章について清少納言が宣孝をディスったという説を時折聞くが、そうかなあ。
「面白いことがあるものねえ」という話ではないだろうか。
ただ、ドラマの清少納言──ききょうがこの宣孝の姿を見たら「ダサッ」という顔をしそうではある。
ところで、まひろに婿取りを持ちかけながらも、彼の息子とまひろをという為時(岸谷五朗)の話にダメダメダメダーメ!と言う宣孝、彼にしては珍しく動揺していませんでしたか……?
明子、道長の子を妊娠
明子(瀧内公美)の「子が出来ました」報告。
「こんな時でも、笑顔はないのだな」
「微笑むことすらなく生きてまいりましたゆえ、こういう顔になってしまいました」
明子の父・源高明が巻き込まれ失脚した安和の変は、明子が4歳の時に起こった。生い立ちを考えると無理もないけれど、一言一言が鉛のように重い。
「けれど、道長さまの御子を宿したことは嬉しゅうございます」
道長の肩に頬を寄せ、そう述べた次の瞬間にみるみる表情が変わる。瀧内公美の演技、絶品である。言葉にいちいち「お前んちのせいでこういう女になったんですわ」をこめられても、うんざりせずに通うあたり、道長は律儀だなあと感心する。粗略にしてはいけない身分の女性ではあるのだけれども。
……愛憎を抱かないから律儀に優しく接することができるのか。
明子と対面しても、自分が政界から追いやった源高明のことすらよく覚えていない兼家。堪らず席を立つ道長、老いていようがなんだろうが、兼家の扇を手に入れ、とにかく呪いを成就させることに執心する明子。
明子の兄・俊賢(本田大輔)の言う通り、兼家は長くない。ならば、このタイミングで好きなだけ呪って、兼家が死んだら「私の呪いが成就した」と満足するほうが彼女の精神衛生上は良いのでは……と、現代人の感覚では考えてしまうが、呪詛の効力が信じられた時代は、呪いをかけたと発覚すれば処罰の対象となった。今回の明子の場合は扇を前に祈るだけだが、これで厭符(えんぷ/まじないの札)や人形を準備していたら、俊賢は血相を変えて止めたのではないだろうか。あのやり方なら、誰かに見られたとしても「舅である兼家様から賜った扇を前に、兼家様のご長寿を祈っておりました」という言い訳ができそうだ。
晴明は答えない
呪いが功を奏したのか否か、兼家の認知症、老いに侵略される様子が真に迫っている。
安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)を呼び出しての、かつてのように問う威厳ある態度。
ケアマネジャーさんとか、介護認定調査員さんとの面談があるときだけシャキッとしてしまうお年寄りのようだ。
しかし如何に威厳を保とうと、晴明は何も答えない。それにより自らの、政治家としての力の失墜を痛感する兼家……老耄(ろうもう)に蝕まれても、こうしたことは理解できてしまう。なんと残酷なことだろう。
詮子が定子に向ける視線
定子と一条帝の仲睦まじさ。年齢的に、まだまだ男女の仲とは言い難い。しかし確実に、定子に心を許している帝……。
詮子が定子に向ける視線が冷たい。
「そなたが来てくれて(帝は)お顔つきが明るくなられた。これからもせいぜい遊んでさしあげておくれ」
文字通り受け取るには、その口調はあまりにも固い。
定子も、それを感じ取っている。
詮子が定子にうっすらと敵意を向ける理由は……嫌悪する父・兼家の政を踏襲する長兄・道隆の娘、というそれだけだろうか。
道長だけが聞いている
道長に、自分の後継者の条件を告げる兼家。
かつての力を取り戻したかのような……まだらな認知症、時折覚醒するのもリアルだ。
「政は、家だ。家の存続だ」「その考えを引き継げる者こそ、儂の後継だと思え」
兼家からこの言葉を聞いているのは、4人の息子のなかで道長だけだ。彼こそが兼家の後継者足り得るのか、でもそれでは、まひろとの約束は、彼女の願いはどうなる……。
気づかないでいてくれ倫子
経済的に苦しいので就職活動するまひろだが、父・為時(岸谷五朗)が無位無官では厳しい。
そしてその噂が届いた土御門邸姫君サロン。よかった。まだ続いていた。しかし、倫子の結婚後は、やはり滅多に開催されなくなってしまったようだ。
茅子(渡辺早織)と、しおり(佐々木史帆)からまひろの窮状を聞いて手を差し伸べる倫子が座るのは、以前は穆子(むつこ/石野真子)がいた場所。もう倫子は土御門邸の娘ポジションではない、女主人としての座を母から継承しつつある。
倫子に手を差し伸べてもらっても、今のまひろには土御門邸に女房として勤めるなんて、とてもできない。彼と毎日顔を合わせて……というか女房であれば一つ屋根の下に暮らすことになる。無理無理無理、無理すぎる。
そして倫子から差し出された、女手蹟の漢詩!!
予告では、まひろと道長の関係がバレたのかと焦ったが、倫子は明子によるものだと勘違いしてくれた。そもそも、まひろがライバルになるとも思ってもいない。頼む、このまま気づかないでいてくれ倫子。気づかせないでくれ、道長。
それはそうと道長、あの漢詩を大切に取っておいたんですね。取っておくどころか、東三条邸から土御門邸まで持ち込んで保管していた。元カノからのプレゼントをしまっておくタイプか。修羅場の種だろう、そんなのは。
そして、あの庚申待の夜、自分と別れたその足で道長は倫子のもとに行ったのだと。自分自身は何度も歌を受け取ったが、倫子は一度も文をもらったことはないと、そんな事実を知った直後に、彼と倫子の間に生まれた彰子と初対面。どう受け止めたらいいのか、まひろと共に心が千々に乱れそうである。
その乱れた心が鎮まらぬうちに、帰宅した道長とバッタリ対面。
柄本佑の表情がすごい。
「自宅に帰ったら別れた彼女、まだ愛してる女がいたときの男の顔」は現実に見たことないが、きっとこんな顔だろうな。
次週予告。ついに巨星墜つ、兼家の最期か。暴言の主は道兼なの……?明子ノリノリで呪詛。実資に妻がいる!帝と定子、ますます仲良し。ききょうがなぜかまひろの家に来てるぞ。まひろの無料文字教室、好調のようである。
第14話が楽しみですね。
*このレビューは、ドラマの設定(掲載時点の最新話まで)をもとに記述しています。