「皿盛」「中華そば」が2枚看板、京都「篠田屋」120年の物語。
名物料理と店を守る家族の物語が、お腹と心を満たしてくれる。
撮影・ハリー中西 文・泡☆盛子
【三条川端】篠田屋(しのだや)|1904年創業
独創的な名物料理「皿盛」と「中華そば」が二枚看板の食堂。
創業120年目の店にはさまざまな人たちの思い出が刻まれ続けている。
創業120年の行列店は新旧の二大名物が魅力。
これを目当てに行列ができるほど人気の名物「皿盛」は、カツカレーのルゥをカレーうどんのあんに替えたもの。透明感のあるスパイシーなとろとろあんが、ラードで香ばしく揚げた薄めの豚カツに優しく絡む。
「もともとは常連さんだけが頼む裏メニューでした」と、4代目当主の粂秀一さん。誕生は40年ほど前、京阪電車の終点が店にほど近い三条駅だった頃のこと。120年を誇るこの店の歴史の中では新顔ともいえる。
連日多くの京阪電鉄職員たちが訪れており、既存のメニューに飽きた彼らは「ご飯にカツとカレーうどんのあんをのせてほしい」とリクエスト。はじめは丼で提供するも「休憩時間短いし早よ食べたいねん。丼は熱うて食べにくいから冷めやすいよう皿に盛ってぇな」とおねだりされて平皿に変更。
粂さんの母・ツギ子さんは、「品書きにはないから、注文を通す時もいちいち『“皿に盛ったやつ”いうてはるえ~』いうてたんです」と懐かしむ。
その数年後、終点が出町柳駅に変わり職員の訪問が激減したことを機に、一般客でも頼めるよう「皿盛」と命名してオンメニュー。ありそうでないスタイルが受け、今や堂々たる看板商品だ。
一方、皿盛と双璧の人気を誇る中華そばは、初代から変わらぬ一品。ちなみに、店名は初代・源兵衛さんの出身地である愛知県・篠田村(現・あま市)に由来している。
戦中は食糧がなく2年ほど休業していた篠田屋だが、戦後には無事復活。
「三条のホテルに滞在してる進駐軍がその辺ウロウロしてましたわ」とツギ子さん。昭和中期は新京極で映画を観た客の帰り道だったため夜中まで営業し、たいそう賑わったという。
幾多の時代を経た今、客も店と同じく3、4代目に。「ここに連れてきてくれていたおばあちゃんのお墓参りの帰りです」と当時と同じ席に座り思い出に浸る客の姿は、粂さん一家にとっても感慨深いはずだ。これからも、誰かの思い出を紡ぐ場所であり続けてくれるよう願ってやまない。
●京都市東山区三条通大橋東入大橋町111
TEL.075・752・0296
営業時間:11時30分~15時 土曜休 予約不可
『クロワッサン』1113号より