『人間国宝という生き方 工芸の匠30人』著者、渡辺紀子さんインタビュー。「生き方のヒントが詰まった30人の物語です」
撮影・園山友基 文・鳥澤 光
「生き方のヒントが詰まった30人の物語です」
人間国宝とは、重要無形文化財に指定された分野で優れた技術を持つ人物を指す通称。その一人、幾何学模様が美しい三越のショッピングバッグでも馴染み深い友禅の作家・森口邦彦さんに取材で出会い、「ドラマチックな人生とチャーミングな語りに惹きつけられた」という渡辺紀子さん。
「森口邦彦先生のお話をうかがったのが2014年の春。’17年、’20年にも取材させていただきました。友禅の歴史から、フランスでアートを学ばれた体験や画家バルテュスとの交流、グラフィックデザインの視点まで、話されることがあまりにも面白かったんです。それで、道を極めた方たちにはそれぞれ独自のストーリーがあるに違いないと確信して、インタビューを続けることにしました」
染織、陶芸、木竹工、金工、漆芸、人形。工芸の諸分野における第一人者たる30人に取材を重ねること10年。作家たちの歩みを聞き、書いたのが『人間国宝という生き方』という本だ。
「西陣織の羅と経錦(たてにしき)を復元させた北村武資先生は、小学校を卒業したら働くぞ、と心を決めていたところに終戦がきて、義務教育が9年に延びて働けなくなり、中学の3年間を消化試合のような気持ちで過ごしたと話されていました。
それでも、戦死した父や兄に代わって大黒柱となるべく門を叩いた。奥山峰石先生のように、15歳から鍛金の道で職人として優勝カップや銀食器などを作り続け、40歳を前にして作家として創作に向き合った方もいらっしゃる。
30人それぞれが、否応なしに時代に巻き込まれながらも、道を切り拓いて生涯の仕事を見つけていった、その様がとても興味深いんです」
70年、80年と歳を重ねても創作への情熱はますます熱く。
「毎日が新しい表現方法を生み出すための自分との戦い。一日一日が短く感じます」と語ったのは、竹工芸の勝城蒼鳳さん。「技が熟してくれば、アイデアはいくらでも浮かんでくるものなんです」とは、本書に記された白磁の井上萬二さんの言葉だ。
「重要無形文化財保持者として認定されることは、頂点を極めたということでも百点を取ったということでもなくひとつの通過点である。皆さんそう捉えて、より多くを学び、新しいことに挑む情熱を抱え、時間が足りないとさえおっしゃる。何よりも努力を続ける達人でもあるんだなと実感しました。
幼少期のお話、修業時代のエピソード、どんな紆余曲折を経てここまでこられたのか、どんな思いで作品を生み出すのか。先生たちが人生を語る言葉には、いかに生きるべきかを迷ったときのヒントがたくさん詰まっていて、人生そのものがまさにビルディングスロマン、生き方のお手本なんですよ」
技を磨き、自然を見つめ、表現を探り、形にする。作家の思いが哲学となり、作品として結晶する。その有機的な結びつきを読ませる文章とユニークな見立てに、読み手は31人目の技を見る。
『クロワッサン』1113号より