「自分ルールで老老介護を支えてきた」(石川みずえさん「介護の距離感」1)【助け合って。介護のある日常】
撮影・村上未知 構成&文・殿井悠子
「できることしかできないから。自分ルールで老老介護を支えてきた。」
石川みずえさん
月曜日から土曜日が仕事。ただし、火曜日と土曜日は、仕事を早めに切り上げることもある。母親の様子を見に行くためだ。
医師の石川みずえさんは、文京区湯島の町医者として、地域の人が病気になったときに最初の相談者となったり、在宅で医療や介護を必要とする人たちの家を訪ねて、必要な治療を施したりするのが主な仕事だ。
「これまで多くの患者さんを診てきました。いつかはうちにも介護が必要になるだろうと思っていましたが、実際に両親の変化を目の当たりにすると“これから先、大丈夫かな……”と不安になりましたね」
老老介護をどういうふうに支えていこう――そう考えるようになったきっかけは、母親の昌子(しょうこ)さんが踵(かかと)を骨折して手術入院したときだった。
「今年の5月に89歳で亡くなった父は、70代の頃からがんで何度も手術をしていて、そのたびにもう長くはないだろうと、少しずつ覚悟をしていました。そのときは母が動けていたので、父のことは母に任せて、私は月に1回実家に顔を出すくらい」
昌子さんが入院すると、家事ができない父親の明さんは、老人保健施設に短期入所した。昌子さんは退院から間もなく膝を骨折して入院。明さんは再び施設へ。ようやく昌子さんが退院すると、明さんが腰椎圧迫骨折をして入院。その後も二人は骨折による入退院を繰り返し、自宅を空けることが増えていった。
「いろいろあっても過ごす主体は家で、外出する能力があるなら外に出てもらいたい。そんな思いもあり、両親が自宅にいるときにはデイケアへの参加を強く勧めてきました。介護保険サービスの限られた点数で、朝昼晩に短時間の訪問介護を何度も入れるより、デイケアに通うほうが日々の日課になってハリが出る。会う人数も多いので社会性を維持できます」
石川さんの自宅から実家までは車で1時間。何かあっても、すぐに駆けつけることはできない距離だ。
「今は自分でルールを決めて週に2回、顔を出すようにしています。物理的な距離は多少あってもいいのかも。歩いて5分のところだと、心配になって毎日行ってしまう。そうなると共倒れしちゃいますから」
最近気になっているのは、一人暮らしの昌子さんに認知症状が見られるようになったことだ。(続く)
『クロワッサン』1100号より