専門家に聞く、災害時にペットを守るための避難方法や避難先での過ごし方。
イラストレーション・小林マキ 文・長谷川未緒
Q.避難することになったら、どう連れて行けばいい?
A.自身の安全を確保後、一刻も早くペットをコントロール下に。
豪雨も地震も被災後に避難するときの基本は同じです。
犬は首輪かハーネス、リードを装着し、外の安全を確認しながら移動します。
首輪やリードなどをしまい込んでいたり、庭に置いていたりするとすぐ手に取れませんから、室内の手の届きやすい場所に置いておくようにして。
リードも散歩とは違うので、伸縮しないタイプを用意しておきましょう。外の状況によっては、小型犬ならばキャリーに入れて移動したほうが安全です。
猫はキャリーに入れますが、家の中で隠れてしまい見当たらないという事態も。いざというときに逃げ込みがちな場所をふだんから把握しておくことが必要です。
いずれにしても、落ち着いて、まずは飼い主自身の安全を確保したら、いち早くペットをつかまえ、コントロール下に置いてください。
Q.推奨されている同行避難、具体的にはどうなっている?
A.あくまでもガイドラインで、受け入れは避難所次第です。
東日本大震災時に、避難できなかったペットが被災地に残されるなどしたことから、同行避難がすすめられるようになりました。
ただし指針とされているだけで、実際には各避難所に判断が任されています。お住まいの地域の避難所が同行避難可能かどうか、事前に問い合わせておくといいでしょう。自治体に要望があることを伝えるだけでも意味があります。
また被害状況によって方針が変わることも。現在のようなコロナ禍においてはなおさらです。いざというときに雨風をしのげる自動車やキャンプ用テントなどがあると安心です。
なお、同行避難は共に避難した後、避難所で人とペットの居場所を分けることが多く、同じ室内で過ごせるとは限りません。
Q.必要なものが持ち出せない。支援物資はペットにも届く?
A.大規模災害では期待薄。自身で用意するつもりで。
局地的被害の場合は、災害発生から数日でペットフードも支援物資に含まれてくる可能性があります。ただし被害が大きければ大きいほど、支援物資は届かないと思って備えてください。
東日本大震災では、半年間、ペット用物資が一度も届いていない避難所がありました。これから起こるかもしれない首都直下型地震などの大規模災害では、支援がなくても人もペットも切り抜けられるようにしておく必要があります。
とくにフードへのこだわりが強い猫や、療法食を食べている子は、しっかりと準備を。
自宅が被災して内部には入れない場合を想定し、ガレージや庭、マンションならば許可を取って共有スペースなどにフードだけでも備蓄しておくといいでしょう。
Q.避難所で動物が苦手な人からクレームがきたら?
A.苦手な人には配慮を。実は動物好きな人にこそ注意が必要。
動物が嫌いな人や苦手な人が苦情を言ってくることはあるかもしれません。そういうときは、ペットがほかの人の視界に入らないように布やダンボールなどで目隠しをしたり、人の居住区域から離れた場所に移動させたり、気を使って努力している姿勢を見せ、問題に対処することが大切です。
実は避難所で大きなトラブルになるのは、動物が好きな人の行動です。余った食べ物を与えてしまったり、警戒している犬に触れて噛まれたり、勝手に散歩に連れ出したりする人も。
ペットがいるスペースは許可した人以外立ち入り禁止にする、ケージに「かみます」とか「さわらないで」といった張り紙をするなど、具体的な対策を立てましょう。ふだんは人懐こくていい子でも、非常時は最大限の予防策を講じてください。
Q.ペットが盗まれるという噂も。 対策はありますか?
A.飼い主同士で協力して、ペットだけにしない工夫を。
避難所では飼い主とペットが同じ居住空間にいるのではなく、ペットのみを一角に集めているケースが多いことから、1頭だけ離れた場所につないでいると迷子と勘違いされ、保護するつもりで連れていく人がいるようです。また、目を離したすきにいたずらされてしまうこともあります。
避難中は家を片づけに行ったり、役所に通ったりと避難所を離れる時間も長いので、できれば飼い主同士で協力してお互いにペットを見守るといいでしょう。離れた場所につなぐ場合は、「〜〜にいます」などと、飼い主の所在を書いた張り紙をするのもおすすめです。
盗難とは違いますが、発災直後、ペットを手放すことを促されたという話もありますが、自治体の一時保護活動が始まる場合もあるので、まずは落ち着いて。
Q.災害公営住宅がペット禁止。何かいい方法はある?
A.犬・猫の幸せを第一に。サポーターも見つけておいて。
ペットを手放さなくてすむよう、生活を立て直すまで愛護団体などに預かってもらい、ペット可の物件にできるだけ早く移るのが望ましいと思います。
とはいえ長期にわたり離れ離れになってしまうのは、ペットにとっても幸せとはいえません。実際、東日本大震災から10年経っても、飼い主が愛護団体に預けっぱなしで引き取りにこないケースも。
できることはすべてやってから愛情を持って手放すのは致し方ありません。次の飼い主を探すなど、ペットにとって何が一番の幸せか考えてあげて。
災害に限らず、もしもの場合に備え、飼い主仲間や友人の中にペットの面倒を見てくれる後見人やサポーターのような人を見つけ、お願いしておくことも必要です。
Q.避難所でのストレス対策におすすめの方法はありますか。
A.犬は積極的に散歩をして。猫はできるだけ早く家に帰す。
犬の場合は散歩が一番のストレス発散になる子が多いですね。飼い主にとっても生活リズムを作り、運動不足の解消になりますから、できるだけ今までどおり散歩に出かけてあげてください。飼い主仲間とおしゃべりできれば精神的ストレスの緩和にもなります。
猫の場合は一刻も早くケージから出してあげるしかありません。家の中に安全で被害の少ない場所があれば、猫は自宅に置き、避難所から世話をしに通うのも一案です。熱中症対策をした自動車内や、キャンプ用のテントなど、自由に動ける空間を作ってあげても。
注意深く見守ることは必要ですが、過度にかまったり、おやつをあげすぎたりしても、かえって不調の原因になります。
Q.避難所や仮設住宅などでの、最低限のマナーを教えて。
A.抜け毛やにおいなど、飼い主が気づかないことへの気配りを。
動物が苦手な人は、見えるだけでも気になるものですから、まずは人とペットのスペースを完全に分けて視界に入らないようにします。
また抜け毛対策はマストです。居住スペースに入る前に服などに毛がついていないか確認し、粘着テープなどで取ってください。
飼い主は慣れていて気にならないにおい対策も必要です。動物臭にはペット用のドライシャンプーを使う、排泄物はすぐに片づける、ウエットフードも意外とにおうので、放置しないように。
「うちの子はいい子だから」と避難所で小型犬を放し飼いにしていた飼い主がいました。その人だけを出入り禁止にもできず、結局その避難所はすべてのペットが不可に。トラブルの原因を作るのは飼い主です。大事にならないよう、細心の注意を払いましょう。
ペットを守れる飼い主とは?
「東日本大震災以降、ペットと防災について理解が進んできましたが、最近は地震だけでなく豪雨被害も切実な問題になり、災害による被害と対策の違いを理解することが必要です」
と語るのは、多くの災害現場で動物救援を行ってきたNPO法人「アナイス」の代表を務める平井潤子さんだ。
「ハザードマップを確認しておけば、自宅付近の被害が想定できます。豪雨の予報で避難の必要があるならば、一時避難所はペット不可になることも多いため、ペット可のホテルに宿泊するなど、ひと晩をしのぐ方法を考えましょう」
地震の場合、家屋の倒壊や火災があって指定避難所に行った後、避難生活が長引く恐れも。大規模地震では支援を期待せず、自助で備える努力を。
「いざというときに頼れる飼い主仲間や友人も、被害を乗り越える助けになります。防災において画一的な答えはありません。さまざまなパターンを想定し、臨機応変に行動できるよう“飼い主力”を鍛えましょう」
『クロワッサン』1056号より