伝統文化の世界で活躍中の貴公子、狂言師・野村裕基さん。「狂言には笑いのすべての要素が入っています」。
撮影・山本康典 文・近内明子
“狂言には笑いのすべての要素が入っています”
若手狂言師として注目を浴びながら、最近は『プーマ』のイメージキャラクターや、WOWOWドラマ『ソロモンの偽証』(10月3日放送開始)の出演など、新しい分野への挑戦が続く野村裕基さん。
「ドラマは現代語のセリフで演技をするのがすごく難しかったです(笑)。父は狂言の稽古の際、ここはカメラがお前をクローズアップしている、この場面ではカメラは引きでみんなの中にいるうちの一人だ、とたとえることがあるのですが、撮影でカメラワークを体験して、あらためて父の指導の意味がわかったように思いました」
漫才やコントなど、笑いの世界にもさまざまあるけれど、狂言の笑いとは?
「実は狂言には、笑いのすべての要素が入っていると思います。私たちの一門が特に大切にしているのは、“美しさ”が先行しての笑い。狂言の最初、幕から登場する場面で、徐々にスピーディになる序破急(じょはきゅう)や、すり足の運びなど、まずは美しくあることに意識があり、その後に笑いの要素がくるのだと父からよく言われます」
国内外の公演で数多くの舞台に出演。週末は地方公演、月曜から大学の授業に戻るなどの多忙な日々が続く時も。
「2〜3時間の稽古はほぼ毎日。狂言の稽古は父から、謡(うたい)や舞などの基礎的なものは祖父から習っています。“舞台の上では普段の野村裕基くんではなく、狂言をやっているプロとしての発声をしなさい”と祖父に言われます。父も厳しいですが、祖父はさらに発音などを細かく指導してくれます」
まっすぐでよく通る溌剌とした声が印象的。友人とカラオケに行けば、祖父の指導のおかげか“こぶし”や“しゃくり”で加点されてしまう、と笑う。
「最近の公演では、最初に演者が演目や語句の説明をすることもあります。予習しなくても楽しめるものが多いので、ぜひ狂言を観にきていただきたいです」
『クロワッサン』1054号より