『スーベニア』著者、しまおまほさんインタビュー。「私の30代を振り返った小説」
撮影・黒川ひろみ(本・著者)
「私の30代を振り返った小説」
本誌で「マイリトルラジオ」を連載しているエッセイの名手、しまおまほさん。このたび、自身を主人公に投影し、切実でリアルな長編恋愛小説を上梓した。
主人公の安藤シオは都内に住む30代独身のカメラマン。浮世離れした文雄が愛しくて仕方がない。しかし、どこに住んで何をしているかよく知らないうえ、会うのは連絡をもらった時だけ。シオは文雄との距離が縮まらない寂しさから、他の男性とも付き合っているのかよくわからない関係に。
執筆のきっかけは6年前、36歳で妊娠し、育児エッセイの依頼を受けたことだった。
「ちゃんと結婚して家庭を持つのが大人だと思っていたけど、将来どうなるのか全くわからず、ぼんやりしたまま親になりました」
しまおさんは結婚への決心がつかず、籍は入れずに出産した。
「これまで流されていると感じながら生きてきました。それをエッセイにすると生々しくなるから避けていたんです。でも、小説にして虚実織りまぜたら面白く書けるかもしれないと。だからこの機会に30代のフラフラ期を振り返ってみることに」
ともすれば鬱屈した気持ちになる題材だが、テンポの良い軽やかな会話が随所に挟まれる。
「よく会話を妄想する癖があるんです。実は登場人物たちも友人がモデルだったりするのですが、これまでひとり脳内で会話していたことを小説の中で話してもらいました(笑)」
自分のことを大事にしないと、人のことも尊重できない。
文雄に夢中だったはずのシオは妻子持ちの点ちゃんから言い寄られ、すっかり浮かれてしまう。不安定な関係を複数人と続けるか迷うもののはっきりできない。
「シオがフラフラしちゃうのは自分の弱さを誰かと一緒にいることで埋めようとしていたから。でもそれって他人のことも自分のことも大事にしていない」
そんなシオの人間関係は、東京を襲った地震で大きく変化する。
「天災などの非常事態って普段なあなあにしていた日常の矛盾が浮き彫りになりますよね」
地震の後にシオの身にある出来事が起こる。はたしてそれは……。
シオと同じく流されるように生きてきたというしまおさんだが、気持ちが変化。
「子どもの通う保育園は親も保育士も自己主張がハッキリしているコミュニティ。自分の意見をちゃんと相手に伝える大切さを私も子どもも学んでいます」
一方、たとえ小説であってもシオと自分を重ねられ、「子どもがいるのに!」と、否定的な意見があるかもしれない不安があった。しかし前向きな感想をもらったことで救われた気がしたという。
「書いただけじゃ陰干し程度でこういう気持ちにはなれなかった。本を出したことで、作品もお天道様に当たって、日干しできました! 読者の方が面白がってくれたおかげです」
『クロワッサン』1026号より