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『漫画少年とトキワ荘〜トキワ荘すべてはここから始まった〜』│ 金井真紀「きょろきょろMUSEUM」

蘇った聖地にて、若き漫画家の切磋琢磨を思う。

『漫画少年とトキワ荘〜トキワ荘すべてはここから始まった〜』│ 金井真紀「きょろきょろMUSEUM」

「トキワ荘の博物館ができた」と編集のMさんから聞いて、「わー、ぜひ行きましょう」と、何も調べないでひょこひょこ出かけた。椎名町の商店街は「懐かしい感じ」が充満していた。八百屋さん、ラーメン屋さん、スナック……すべてが昭和のドラマのセットみたい。「たしかこの辺のはずだけど」とMさんとふたり、路地で迷っていると、渋くていい感じのモルタル木造アパートが目に入った。

「あ、ここにも懐かしい建物が」と言いかけて、「わっ! これがトキワ荘か!」

トキワ荘マンガミュージアムは、まるごとトキワ荘を再築した夢のような場所であった。壁やベランダの手すりにはエイジング処理が施され、共同炊事場のカルピスの瓶も、部屋に置かれた火鉢も徹底的に時代感を出しているのに、建物自体は新築の匂いがするのがおかしかった。

手塚治虫、寺田ヒロオ、藤子不二雄A◯、藤子・F・不二雄、赤塚不二夫、石ノ森章太郎……若き日にここで暮らした漫画家の名前を並べるだけでキュンとする。いちばん印象深いのは「当時、喧嘩や嫉妬は一切なかった」という証言だ。仲間が〆切に追われていたら徹夜でペン入れを手伝い、売れっ子になったら我がごとのように喜ぶ。そんなファンタジーみたいな人間関係があるだろうか? 未熟なわたしだったら、きっと喧嘩も嫉妬もするし、いじけちゃうと思う。彼らのもっともすごいところは、本当の幸せは早く売れることでもないし他者の評価でもない、と知っていたこと。かもしれないなぁ。

豊島区立トキワ荘マンガミュージアム(東京都豊島区南長崎3-9-22)は現在、入館はホームページからの予約制。9月30日までは企画展として『漫画少年とトキワ荘〜トキワ荘すべてはここから始まった〜』を開催中。TEL.03-6912-7706 10時〜18時(入館は17時30分まで) 月曜休館(祝日の場合は翌平日休) 無料

金井真紀(かない・まき)●文筆家、イラストレーター。最新刊『虫ぎらいはなおるかな?』(理論社)が発売中。

『クロワッサン』1028号より

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