新型コロナ感染予防による行動自粛は、二人にはまた新たな試練となる。中澤さんは教室を閉めざるを得なくなり、熊谷さんは初めての座長公演の中止を余儀なくされた。
「還暦祝いでもある初の座長公演で、気合が入っていた。本当に命がけで頑張っていたのに、稽古場で中止が発表され、茫然自失でした。そのとき、夫が私のために泣いてくれて。すぐにこれからどうなるんだろうと、二人でものすごい勢いで世の中のことを勉強し始めました。コロナが社会や個々の心の内側にまで向かってくる。少しでも事実を知り、私たちにできることを考えなくてはと思って」(熊谷さん)
もともと料理を作るのは得意だったが、家事にも今までになく向き合い、個人として発信できることも意識するようになった。夫婦の形についても再度じっくりと話し合ったそう。長く二人で向き合った3カ月を経て、お互いに夫婦として気になるところは?
「お金の問題。家庭内のパワーバランス。私は芸歴40年だし、稼ぎもある。年も上。夫を立てたい気持ちはあるけれど、いい意味でも悪い意味でも私のほうが強くなってしまう。何か言うと説教くさくなるし。もうちょっと気持ちよく、二人で明るく世の中の役に立っていくことができないものかと。幸い、お互い、尊敬しあっていて、大好きだから」(熊谷さん)
中澤さんも率直に答える。
「妻のアドバイスが説教に聞こえることは確かにある(笑)。でも年上という立場で言ってるんじゃない、と受け入れようと。それと彼女は大雑把なところがあるので、几帳面な僕にはストレスに感じることも。でも、夫婦という形が勉強の場。お互いに人として成長していければと思います」(中澤さん)
そんな二人の日々の小さなストレスを解消してくれるのは、年に1〜2度の旅。計画を立てるのは熊谷さん。
「彼が感動している顔を見るのが幸せ。辛いものが苦手なのに、インドにはまた行きたいそうです」(熊谷さん)
「インドは圧倒的な土地のエネルギーを感じたんです。人間の根源に触れた気がして、なぜ自分が書の仕事をしているのかも考え直せました」(中澤さん)
もうひとつ、二人をつなぐものが“飛行機”。父親が子どもにするように、熊谷さんのおなかを中澤さんが脚で支えて、宙に上げる。大人がやるのがなかなか至難の業なのは、想像に難くない。
「体調がよくて、息が合わないとできません。だから、二人の心身のバロメーターなんですよ!」(熊谷さん)
「二人で世の中のために明るく役に立っていきたい」(熊谷さん)