断捨離の提唱者やましたひでこさんに聞く「捨てる力」の鍛え方
撮影・青木和義 文・一澤ひらり
『トライ&エラーで捨てる力は鍛えられる。そのプロセスが学びに。』
断捨離とは、ただモノを捨てることにあらず。モノとの関係性を通して自分を見つめ直し、執着を手放して住空間を美しく整える、暮らしと心のケアメソッドだ。断捨離の提唱者、やましたひでこさんは指摘する。
「住空間も体と一緒です。食べたものを体は消化吸収して排泄します。家だって同じで、必要なものを搬入したら不要なものは搬出する。入れてばかりで出さなかったら住空間も便秘になります。入れたら出すというのは自然の営み。本来の自然の流れを取り戻すことが大切なんです」
『ただモノを収納するだけでは、判断を保留しているのと同じ。』
詰め込むだけの収納は、忘却グッズを生み出す原因に。
捨てる力を鍛えることは、もともとあった状態、すなわち自然な本来の機能を取り戻すことにほかならない。
「今は情報もモノもあふれ、いつでも買えるからつい買ってしまう。その一方、捨てるのはもったいない、いつか誰かが使えるかもと思って捨てる判断を保留してしまいがち。それでモノが溜まりに溜まって、手に負えなくなる無間地獄に陥っていくわけですね。で、収納にモノをひたすら突っ込んでいく。すると見えなくなるから忘れてしまい、忘却グッズになり果てる。ここに収納の大きな落とし穴がありますね」
本来の収納とは、必要とされているものたちが次の出番を待つための楽屋であるべき、とやましたさん。
「収納して片づけをおしまいにしている人がいるけれど、それは大きな間違い。収納すると不要なものをしまい込んで放置されがちです。それでは何の解決にもなりません。本来収納とはモノが次に活躍する時に備えて準備万端で待機している楽屋なのだから、開けた時にうっとりするような美しく調った空間であってほしい。私がディスプレイするようにモノを収納するのはそのためです」
しかし次の出番について考える余裕もなく、単にモノをぎゅうぎゅう詰めに押し込んで、うっとりどころか、スッキリした空間さえも味わえていないのが実情。どうすれば?
「今の自分に必要なもの以外は手放して、使いやすいように整えていくんです。では、それを見極めるにはどうするか?
そのモノが自分にとって必要か、ふさわしいのか、心地よいかの『要・適・快』で判断すればいい。それで『不要・不適・不快』なものを手放していく。この問いかけの作業が大事です」
『いつか使えるかも…で、モノが溜まる無間地獄から脱する。』
どこから手をつけていいかわからないと途方に暮れたら、まずはごちゃごちゃと引き出しに入っているものを全部出してみることだ。
「いかに不要なものが多いかがひと目でわかります。そこで自分にとっての『要・適・快』を判断して、不要なものを捨ててみる。引き出し、下駄箱、冷蔵庫といった小さな空間からトレーニングを始めていけば、やり方が身についていきます」
空間に余白があってこそ、美しさは際立つ。
断捨離はひたすら地道なトレーニングあるのみ。一気に捨ててしまうというような幻想は抱かない。
「失敗していいんです。まず行動が先で、とにかくやってみることが大事。捨てる力を鍛えるにはトライ&エラーを何度も繰り返すしかありません。このプロセスこそが大きな気づきになり、いつしかトライ&サクセスに結びついていくんですよ」
モノを削ぎ落としてスリム化されると、空間にゆとりが生まれ、自分の美意識が反映されるようになる。
「どんなに美しい調度品もごちゃごちゃした部屋の中では埋もれてしまいます。空間に余白があってこそ、美しさは際立つのです。しかも、モノが少なくなるとちょっとした汚れが目立つようになり、今度はピカピカに磨いてきれいにしたくなる。断捨離はスッキリした片づけのさらに上の境地、うっとりするほど洗練された空間を目指しています。住空間がそうなれば、自ずと体も心も豊かに美しくなるのです」
『クロワッサン』1026号より