『はいからモダン袴スタイル展—「女袴」の近代、そして現代』│ 金井真紀「きょろきょろMUSEUM」
袴を穿くことで女たちはずんずんと活発になった。
40歳のとき、生まれて初めて自分用のグローブを買った。手が小さいから中学生用。手にはめた時、ニマニマと笑みがこぼれるのが抑えられなかった。そうか、わたしはずっとグローブが欲しかったんだ、とその時やっとわかった。幼い頃、父と弟のキャッチボールをわたしはそばで見ていただけ。目が悪いことを心配した両親がやらせなかったのかもしれないが、わたしの中で「野球は女がするものではない」との決めつけがあったと思う。
竹久夢二美術館で開催中の袴の展覧会には、「女だって、やろうと思えばなんでもできるんだもんね」が溢れていた。明治以降、女学生や働く女性が袴を穿くようになった。当初は「男装的」とされた女学校の袴姿は「醜い」「国辱」と非難されたとか。だが、新しい時代を生きる女性たちのハイカラなファッションとして定着していく。
なにより裾の乱れを気にしなければいけない着物と違い、袴なら自転車にも乗れるし、テニスもできる!スキーに野球にと袴姿で躍動する乙女たちの絵や写真がまぶしかった。当時の袴は丈が短く、一見するとひざ丈スカートみたいだ。女の子たちは足に風を感じながら初めてのスポーツに胸を高鳴らせたのだろう。戦後はほとんど見かけなくなった袴だが、’80年代から女子大生の卒業式ファッションとして復権した歴史もおもしろい。
ちなみにわたしのキャッチボールは進歩の気配がなく、だいたいいつも球を取り損なって騒いでいる。
『はいからモダン袴スタイル展—「女袴」の近代、そして現代』
竹久夢二美術館(東京都文京区弥生2-4-2)にて3月29日まで開催中。和装から洋装へ移る時期の袴姿を当時の絵や雑誌、写真、実物の展示等で紹介。TEL.03-5689-0462 10時〜17時(入館は16時30分まで) 月曜、2月25日休館 料金・一般900円
金井真紀(かない・まき)●文筆家、イラストレーター。最新刊『虫ぎらいはなおるかな?』(理論社)が発売中。
『クロワッサン』1016号より
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