東京23区の位置を確認!?│山口恵以子「アプリ蟻地獄」
イラストレーション・勝田 文
国旗クイズに続く、あそんでまなべるアプリシリーズ。東京23区モードと東京都全域モードがあり、どちらも境界線入の地図に地区名入のパズルをはめるトレーニングから、ノーヒントのエキスパートまで三段階。
私は23区のトレーニングを五分で完了、エキスパートでもほぼ同タイムで完了し、編集者に驚嘆された。
何故地図オタクでもない私にこんな事が可能だったかというと、ひとえに去年の台風十九号のせいだ。
私の住む江戸川区は海抜ゼロメートル地帯で、かつては水害に悩まされていたが、治水工事が進み、過去五十年間は床下浸水さえ一度もなかった。それが、突然の避難勧告である。
荒川の堤防が決壊すれば、城東五区(足立・江戸川・葛飾・江東・墨田)は全域が水没する。
だが、我家には三匹のDV猫と母の遺骨(遺言で私が死ぬまで一緒にいる)と要介護2の兄がいる。彼らを連れて避難所には行けない。
私は天気予報を聞きながら、穴があくほど地図を見つめ、堤防が決壊しないように祈り続けた。お陰で城東五区の形と位置関係が目に焼き付いてしまい、地図をぱっと見ただけで、すぐに分ったのだ。
幸い、今回は浸水被害を免れた。しかし次も無事とは限らない。
これまで防災と言えば地震対策だったのに、実は水害もあったのね。
東京都の地図なんて分らなくても構わない。もう大きな台風が来ないように、来ても高潮と重ならないように、荒川の堤防が無事なように、ひたすら願う毎日である。
山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。最愛の母と過ごした最期の日々を綴ったエッセイ『いつでも母と』(小学館)が3月5日に発売予定。
『クロワッサン』1016号より
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