【沙羅さん×篠原菊紀さん 対談】物真似【2】
脳と物真似との関係を探ります。
撮影・青木和義 ヘア&メイク・大谷亮治 文・嶌 陽子
綾瀬さんの物真似をすると自然と気持ちが明るくなる。
沙羅 綾瀬さんの大きな特徴が、口角がずっと上がっていることなんです。私のデビューのきっかけは、『笑っていいとも!』の素人そっくりさん大会。そこで綾瀬さんのマネをしてチャンピオンになったんですが、その時は口角を上げられなかったんですよ。当時、私は声優を目指していたものの、夢を諦めて地元に帰ってお見合いをするという時だったので挫折感もありましたから。それが物真似芸人になって綾瀬さんのマネをするようになってから、口角が上がるようになりました。そうすると、顔全体の表情も明るくなるんです。
篠原 気持ちも変わるんじゃない?
沙羅 はい。私、普段はすごく大人しいタイプなんですが、綾瀬さんのマネをする時は普段の15倍くらい明るい気持ちになります。(綾瀬さんの声で)「おっはよ〜!」みたいな感じになるんです。
篠原 それを「身体化された認知」って言うんです。たとえば、「楽しいから笑う」っていうのは当たり前にあるけれど、「笑い顔を作ると楽しくなる」というように、体の形や構造を決めると、脳のほうがそれに対応するようになることはよく知られています。今の話で言うと、綾瀬さんをマネしていると、沙羅さんの脳がそれを自己解釈して楽しくなるっていうことですね。
沙羅 まさにそうだと思いますね。壇蜜さんのマネをしている時は、すごくエロい気持ちになります。
篠原 え、そうなんですか(笑)。よくある実験は、割り箸を口にくわえると口角が上がって自然と楽しい気持ちになるというもの。逆に、口をすぼめると少し暗い気分になるんです。
沙羅 先生は、誰かの物真似をしたことはないんですか? それで気分が変わったりしたことは?
篠原 ないですよ! だって「似てる」って言われるからマネするんであって、誰にも似てないのにやっても仕方ない。
沙羅 そうですか? さっき先生と一緒に雑誌の『平凡』風に写真を撮りましたけど(左ページ)、谷村新司さんに似てるような……。私も綾瀬さんになりきって楽しかったです。
篠原 (笑)滅多にない体験ではありましたけどね。
沙羅さんの華麗なる顔マネ6変化をとくとご覧あれ。
物真似上手な人は自己モニター力が高い。
沙羅 綾瀬さんご本人とは一度だけお会いしたことがあるんです。ある日エレベーターに乗っていて、ドアが開いたら目の前にいらして。あまりに突然だったのでびっくりして。「物真似させていただいてます。沙羅です」って自己紹介したら、(綾瀬さんの声で)「拝見してます」って。すごくうれしかったですね。
篠原 さっきから話の中にさりげなく綾瀬さんの声マネを入れているけど、マネする時のスイッチってどうやって入れてるんですか?
沙羅 スイッチを入れるという意識はあまりないんですよね。物真似芸人になる前から、誰かになりきるのはずっと好きだったんです。日常会話の中で「あの人があんなことを言ってたよ」っていう話は誰でもするじゃないですか。私はそれを、その人が実際に言っていたように言わないと気がすまないんですよ。
篠原 沙羅さんは、夢はよく見るほうですか? 自分で夢の操作ができることってある?
沙羅 はい、夢はすごくよく見ますね。操作できることも時々あります。たとえばいい夢を見ていて途中で起きちゃっても、もう一度寝るとまた続きを見られるとか。
篠原 それは明晰夢といって、夢の中身がリアルに分かること。そしてストーリーに介入できることです。明晰夢を見る人っていうのは、自己モニター力が高いことが知られています。つまり、自分を客観視できる。自分がしゃべった時に人からどう聞こえるかを判断したり、自分が人のマネをした時に「その人っぽく聞こえないと嫌だ」と思ったり。脳の部位で言うと内側前頭野。そこが鋭敏なんじゃないでしょうか。さらに言うと、明晰夢を見られる人っていうのは統計的に知的能力が高いと言われてます。
沙羅 わあ。これ、ちゃんと書いておいてくださいね(笑)。
篠原 物真似っていうのはすごく脳を使う行為。脳トレをずっとやっているようなものなんです。情報や記憶をいったん脳にメモし、処理する力のことをワーキングメモリーと呼んでいますが、沙羅さんはその力が強いでしょうし、日々物真似することでさらに鍛えられているのかもしれないですね。
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