【紫原明子のお悩み相談】EDの治療を頑張ってくれない夫と離婚を決めた私はおかしいでしょうか
<お悩み>
はじめまして。頭も心もぐちゃぐちゃなまま、失礼します。
結婚生活1年と少し、離婚を考えています。
結婚前から夫はEDを患っており、頑張って治療していこう、と言っていたはずでした。 何度も頑張る、と言い、私はそれを信じ、けれど何も頑張ろうとしない姿に悲しくなり、一緒に頑張ろうねと励ますことにも疲れてしまいました。
子作りはもちろん、夫婦としてのコミュニケーションもとれず、年齢的な焦りもあり、だんだんと気持ちが冷めてしまいました。
その他の些細なことでも口では都合のいいことばかり言うのに、そこに行動が伴わないことが多く、「自分の発言に責任をもつ」ということが出来ないことに対して、許せない気持ちが膨らみ、離婚を決意しました。
ですが両親からは猛反対され、呆れられ、考え方を否定され、生きていくことすら辛くなってきています。 私がおかしいのでしょうか。厳しすぎるのでしょうか。(相談者:柿の種チョコ/女性/20代の主婦、子なしです。)
紫原明子さんの回答
柿の種チョコさんこんにちは。
お手紙を拝見して、柿の種チョコさんの決意がおかしいものとは思えませんでした。いくらご両親と言え当事者ではないし、結婚は生活している二人の問題なのだから、柿の種チョコさんが離婚をするしかないと思われたのなら、それが答えだと私は思います。
ところでいただいたお手紙を拝見して、1つだけ、どうにも気になった言葉があります。それは「だんだんと気持ちが冷めてしまいました」というところです。
“口では都合のいいことばかり言うのに行動が伴わない”、“「自分の発言に責任を持つ」ことができないことが許せない”。この、息継ぎなく一文で畳み掛ける感じからは、旦那さんへの思いはまだ決して冷めきっておらず、怒りという形でいまだ熱々に熱を持っているような印象を受けるのです。
「気持ちが冷める」というのは、その人へ一切の期待をしなくなって、心の中が無風状態になるようなことですよね。一方で「怒る」というのは、どうにか期待に応えてほしい、現状を変えたい、自分の中にあるありったけのエネルギーで一向に動かない状況を動かしたい。「北風と太陽」の話で言うところの、いわば「北風」のアプローチです。そんな「怒り」が、柿の種チョコさんの文章全体から、ひしひしと伝わってくる気がするのです。
そしてそれは、必ずしも旦那さんだけに向けられた怒りではないのかもしれません。自分の気持ちを理解し、支持してくれないご両親にもまた、旦那さんと同じような怒りを感じていらっしゃるのかもしれません。
「自分の発言に責任を持つ」というのは、実際のところ結構難しいことです。たとえば、子どもが習い事を辞めたいと言ったときなんか、親は「やりたいと言ったのは自分でしょ、責任を持って続けなさい」なんて言ったりします。でも子どもが「やりたい」と言ったときの自分には、やりたいと言うだけの気分や、事情があったんですよね。そして辞めたくなった今、そこにもやっぱり、辞めたいと言わせる気分や、事情があることには違いないのです。でも、もし仮に親に「続けなさい」と言われた子どもが、やむを得ず「分かった、やっぱり続ける」と言ったとして、辞めたいと思った状況が変わらなければ、遅かれ早かれまた必ず「辞めたい」と言い出しますよね。でもやっぱりそこで「あのとき続けるって言ったでしょ、責任持って続けなさい」と言われてしまう。
こんな風に「私はこれをやります」と、表面上はさも自分の意思のもとで言っているかのように見えるときにも、その背景には、当然さまざまな脈絡があります。さまざまな外からの力が、「やります」と「言わせている」と考えることもできると思うのです。なのに、責任を追求されるときには、そんな前後の事情は一切無視され、すべてその人の意思の仕業となってしまう。これって結構、無慈悲なことだなあと思うんです。
そもそも旦那さんはどうしてEDを治すことに消極的なのでしょうか。旦那さんは本当に消極的だったのでしょうか。努力を見せなかっただけということはないでしょうか。旦那さんご自身は、自分の状況をどう感じていらっしゃるのでしょうか。柿の種チョコさんをがっかりさせたくない、嫌われたくないからこそ、言えなかった本音があったのではないでしょうか。
柿の種チョコさんの焦りや怒り、悲しみはとてもよく伝わってきます。したいのにできないというのは本当に苦しいことですよね。きっと、沢山悩んでこられたのだろうと思います。ただ、やっぱり残念ながら、他人を自分の思い通りに動かすことはできません。その人の中の機が熟すまで待たねばどうしようもないことというのは、家族の間にはたくさん発生します。ましてや体調のことですから、旦那さん本人でさえ、どうもならないもどかしさをたくさん抱えていらっしゃることでしょう。表向きは都合のいいことばかり言っているように見えるでしょうが、実際は今まさに離婚を突きつけられようとしているのです。そんな危機的な空気を、さすがに本人が感じていないはずはありません。でも、都合のいいことしか言えない事情が、何かしらあるのではないでしょうか。
可能であればそんな、旦那さんの葛藤が、もう少し柿の種チョコさんに伝わると良かったのだろうと思います。性にまつわる話で、「本当はこう思っている」と本音を打ち明けるには、そうしても大丈夫だという絶対的な安心が不可欠です。
ここではコートを着込む必要がない、暖かい場所なのだと実感して、旅人は初めてコートを脱ぎます。いつの間にか冷たい北風が吹きすさんでいた家の中では、旦那さんもきっと、本音を話せなくなってしまっていたのではないかと思うのです。
それでも、最初にお話したように、離婚を決めた柿の種チョコさんの決断がおかしいとは思いません。けれども、どうせ別れると決めたのならば、柿の種チョコさんの怒りを少しだけ落ち着かせて、これが最後と、旦那さんの本音に、じっくりと耳を傾けてみられてはいかがでしょうか。
紫原明子● 1982年、福岡県生まれ。個人ブログが話題になり、数々のウェブ媒体などに寄稿。2人の子と暮らすシングルマザーでもある。Twitter
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