最近よく聞く虚血性心不全の前に、大人の女性が気をつけたい心疾患があると聞きましたが…。
撮影・青木和義 文・及川夕子 イラストレーション・川野郁代
更年期女性の10人に1人。微小血管狭心症を見逃さない。
竹内 それならなおさら、心筋梗塞や心不全になる前に手を打っておきたいですね。狭心症についても、もう少し詳しく教えてください。更年期に多く見られる、女性特有の狭心症があると聞きました。
天野 狭心症は、運動によって心筋に血液が行き渡らなくなる「労作性狭心症」と、冠動脈のけいれんが起こる「安静時狭心症」が知られています。実は、これらとは違う「微小血管狭心症」というものがあって、女性特有の病気といえるほど性差が顕著。更年期女性の10人に1人に見られるほどです。
竹内 やはり、女性ホルモンが関係しているのでしょうか。
天野 閉経に伴うエストロゲンの減少や心身のストレスなどが原因になります。エストロゲンには心血管系の保護作用があるので、それが失われると微小血管に影響が出て、胸痛などの症状が出てくると考えられます。
更年期に入ってから胸痛があったら 微小血管狭心症かも。覚えておきたいですね。(竹内さん)
竹内 予兆とか見分け方ってあるんでしょうか。何かわかりやすいサインがあるとよいのですが……。
天野 安静時や就寝時に胸痛が出る、痛みが10分以上、ときに半日以上続く、狭心症の治療に使うニトログリセリンなどの硝酸薬が効かないなどが特徴ですね。更年期の女性で胸痛があれば、この病気を疑ってみてください。
ただ、微小血管狭心症は微小な血管の収縮が原因なので、心電図検査をしても異常が出ない、冠動脈造影をしても狭窄が見当たらないという症例があります。最近では医師の間でもかなり周知されてきましたが、すぐに診断がつかないこともあります。原因不明の胸痛でドクターショッピングを繰り返している人は、女性の心臓病に詳しい循環器内科で診断・治療を受けてほしいですね。
竹内 かかりつけ医に「この病気ではないか」と、聞いてみるのも一つの方法ですね。治療はどのように行われるのですか。
天野 多くの場合は、高血圧や狭心症の薬として長く使われている「カルシウム拮抗薬」で症状が治まります。微小血管狭心症は、疲れや睡眠不足、ストレスも誘因になります。診断がついて、この病気は「命に関わることはない」とわかると、安心して症状が軽くなる人もいますよ。
竹内 更年期には、ホットフラッシュのほかに、不眠、動悸、頭痛などさまざまな症状で悩まされがちです。重大な病気だったらどうしようと、不安になる女性も多いと思うんです。診断がつくと確かに安心です。
天野 複数の更年期症状があって困っているなら、女性外来や婦人科で相談してみてもいいですね。微小血管狭心症も更年期障害も、主な原因は急激な女性ホルモンの減少なので、ホルモン補充療法は有効です。漢方を併用しながら治療をすることもありますよ。
広告