知っておきたいがんの公的制度やアピアランスケア──心を占める不安とどう向き合う?
イラストレーション・Hi There 文・石飛カノ
国立がん研究センターの「がん情報サービス」の統計(2021年)によると、一生のうちでがんと診断される確率は男性で63.3%、女性で50.8%。およそ2人に1人はがんにかかる時代だ。
年齢的には40〜50代からがんの罹患が増えていくので、高齢化ががんの増加に繋がっているのも事実。では女性特有の罹患の特徴はあるのだろうか? 日本医科大学武蔵小杉病院の腫瘍内科医・勝俣範之さんに聞いた。
がんと告知されたその日から、心を占める不安とどう向き合う?
2人に1人はがんになる時代とはいえ、いざ告知されたら多くの人は間違いなく悩みや不安を抱えることになる。厚生労働省は、2003年に第一次、2013年に第二次、がん患者の悩みに関する2回の大規模アンケートを行なった。
●どんな不安があるか
2回のアンケートによると、第一次では「不安などの心の問題」が男女ともに悩みの半数を占めていたが、第二次では男性は4割、女性は3割程度減。これは、医療スタッフからの説明など、対話による情報提供が増えたためと考えられる。
一方、調査では男性より女性のほうが家族(子ども)との関係を気掛かりに感じたり、手術による外見の変化など自分らしさの揺らぎを不安に思う傾向があることが分かった。
「がんと告知されてからしばらくは、みなさん強いショックを受けて平常ではいられません。それがおよそ2週間くらいすると、立ち直りに向けた心の動きが出てきて通常の状態に戻ります。それでも、6割くらいの方は適応障害やうつに陥るケースも」
●どこに相談するのか
告知直後は、不安と孤立感に苛まれる時期。そうしたときに相談に乗ってくれるのが「がん相談支援センター」。誰でも無料、匿名でも利用できる相談窓口で、国が都道府県ごとに指定した質の高いがん医療が受けられる「がん診療連携拠点病院」に設置されている。主な相談員は看護師やソーシャルワーカー。
「最近ではがん診療連携拠点病院の指定要件に、患者のあらゆる悩みの相談に乗ることが掲げられています。もちろん、その病院で治療を受けていない患者の相談にも乗ってくれます」
経済的な不安は、公的制度をとことん利用して
厚生労働省の2回のアンケートでは、第二次のほうが「就労・経済的不安」が高まっていることが分かった。日進月歩の治療や医療にかかる費用が予想していた以上に高いと感じている人が多いという。
「新しく登場した抗がん剤の中にはとても高額なものもあり、最近のがん治療にはお金がかかります。ですから、公的に利用できる経済的な支援制度を調べることはとても重要。たとえば高額療養費制度はほとんどの病院で紹介されますが、それ以外は申請しないともらえないものが大半なので、告知されたらすぐにチェックしましょう」
【利用できる主な公的制度】
高額療養費制度
各月1日〜末日に医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が一定額を超えた場合、超えた分の金額が払い戻される制度。一定額とは、年齢(70歳以上か69歳以下)や所得によって定められた1カ月間の自己負担限度額。ただし、入院時の食事負担や差額ベッド代などは医療費に含まれない。申請先は加入している公的医療保険の窓口。
傷病手当金
会社員や公務員などが病気による休職などで収入を確保できなくなった場合、基準に応じた金額を受給できる制度。支給される期間は支給開始日から通算して1年6カ月。主に中小企業の社員やその家族が加入している医療保険、全国健康保険協会が提供する制度なので、国民健康保険の被保険者は対象外となる。
障害年金
国民年金の支給開始は65歳以降だが、病気やけがで生活や仕事が制限される障害の状態になった場合、65歳未満でも年金が支給される。ほとんどの傷病が対象となり、がん患者の場合はがんの進行や抗がん剤の副作用で生活や仕事が制限されるケースで受給可能。ただし、申請方法が複雑なので社会保険労務士などに依頼するほうが確実。
介護保険
受給できるのは40〜64歳の医療保険加入者と65歳以上の介護保険の被保険者。前者は末期がんで治療が難しいなど、老化に起因する疾病で、生活で何らかの介護が必要になった場合に申請が可能。後者は介護が必要となった場合、誰でもサービスを利用できる。要介護状態の区分によってサービスの内容や月ごとの給付金の上限が決まっている。
知っておきたい、アピアランスケア
乳がん手術による乳房摘出、抗がん剤の副作用による脱毛、肌や爪のダメージなど、治療による外見の変化により敏感なのが女性。
「がん治療によって変化した外見のケアをアピアランスケアと言います。このケアが今、医学界でも注目されていて、がん相談支援センターでも外見上の相談に対応することが指導されるようになりました。肌への色素沈着などをカバーするメイクの講座を設けている病院も出てきています」
治療中にも外見のダメージを減らすアピアランスケアがある。代表的なものとしては抗がん剤投与治療の脱毛を防ぐための頭皮冷却装置、ドセタキセルという抗がん剤投与による爪のダメージや手の痺れを予防する冷却グローブなど。自分らしさを取り戻すためにも情報収集を。
不安を煽る、意外な落とし穴
がんの早期発見・早期治療は「百利あって一害なし」と思われがち。ところが今、世界的に問題になっているのが“過剰診断”。生死に関わらない早期がんだけを発見し、肝心の進行がんが減らないという現象。または進行の遅い前立腺がんや甲状腺がんには検診の意味があまりないという事実。
「もちろん、検診を受けることが悪いのではありません。ただ検診にもデメリットがあることを知識として知っておきましょう。国が推奨している検診項目は胃がん、子宮頸がん、肺がん、乳がん、大腸がん。これ以外の検診は必須ではないと考えてください」
また、エビデンスが不確かなネットの情報に振り回されないこと。ネット検索の前にファーストオピニオンである主治医の話をしっかり聞くことのほうが数倍重要だ。
さらに保険のきく標準治療ではなく、「自由診療」「自費診療」を謳う治療は信用しないこと。
「歯科や美容外科以外の自由診療はまず怪しい。いい治療は保険適用であることを頭に入れておきましょう」
『クロワッサン』1152号より
広告